第27話

文字数 895文字

 ふと俺は目に留まった小箱を手に取った。
 箱には『ラブレター』と書かれている。タイトルだろうか。
 西洋的な絵柄のイラストも印象的だ。
 どんなゲームなのか気になった。
「あ、それはカナイセイジの『ラブレター』だね」
 青井さんが俺の手元をのぞき込みながら教えてくれた。
「え? 作ったの日本人?」
 俺は素で驚いてしまった。ここまで見てきたボードゲームはどれも海外で作られたものだったからだ。
「そうだよ。そのゲームでたしかたくさんの賞を獲ってる」
「へえ」
 思わず間抜けな声を出してしまって口許を手で隠す。
「どんなゲームか青井さん、知ってる?」
 照れ隠しにあわてて彼女に話を振った。
「うん。『ラブレター』はね、お城のお姫様に恋する主人公がラブレターをお姫様に渡すために、お城に仕えるさまざまな身分の人たちにラブレターを運んでもらって、最後にお姫様に届けるってゲームなの」
 解説している時の青井さんはテンションが高めだ。どことなくはしゃぎすぎないようにと自制しているのが伝わってきて、俺は口許がほころんだ。
「なんかロマンチックだね」
 ラブレターを渡すゲームというのが、なんだか『いいな』と思った。
「気に入った? ルールと遊び方はね……あ、わたし『ラブレター』持ってるから今度一緒にやろうよ」
「ぜひとも」
 青井さんが目を輝かせて誘ってくれたので、俺は即答していた。
 彼女が一緒になにかしようと誘ってくれるのは、ほんとうに嬉しいものなんだなと実感する。
「そうだ、俺も『ラブレター』買おうかな」
 俺は手にした小箱を見ながらそう思った。
「いいの? わたし、持ってるけど」
 青井さんは同じものが二つあってもってことで言ったんだろうけど、俺には別の想いがあって――
「いや、だからさ、青井さんとおそろいだなって」
 言いながらどんどん頬と耳が熱くなっていった。
 青井さんもみるみるうちに顔が赤くなっていく。
「それに、なんか惹かれるものがあった。こういうのは直感が大事だと思って」
 俺は感じたままの気持ちを伝えた。
「うん。そういうことなら」
 青井さんも微笑んで同意してくれる。
 こうして俺は『ラブレター』を買うことにした。
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