第41話

文字数 1,002文字

『こんばんは』
「いきなりでごめん」
『ううん。いいよ』
「なんか、青井さんの声が聴きたくて」
『どうかした?』
「いや! たいしたことじゃないんだ。ただの確認」
『あはは、何それ』
「でも、なんか不思議だよ。昼間ずっと会ってたのに、夜、こうして声だけ聴いてるのがさ」
『うん』
「会いたい」
『月曜日からまた毎日会えるよ』
「うーん、ほんとうは二人だけでずっといられたらって思ってる」
『うん……わたしもそうしたい』
「…………」
『遊木くん?』
「非力だ」
『非力?』
「青井さんを連れ去って、どこか二人でいられるところに行きたいくらいなのに、俺にできることって何なんだろ」
『仕方ないよ。まだ高校一年だもん』
「高校一年……子供だよなあ」
『だからさ、一日一日を大事にすごしていけばいいんじゃない? みんな嫌でも大人になるんだよ?』
「そっか……そうだよね。俺、何焦ってんだろ」
『わたしは楽しみだよ? 高校生活。そりゃ受験もあるけど、おいしいもの食べたり、買い物したり、いろんなこと素敵なカレシとしたいじゃない』
「うん。俺も素敵なカノジョといろんな楽しいことたくさんしたい」
『ね? 全部これからなんだよ? 楽しもう?』
「あはは、ありがと。なんか、もやもやが晴れた」
『よかった』
「あーもう参ったなあ!」
『ど、どうしたの?』
「ますます会いたくなった」
『仕方ないなあ。明日、図書館に行くんだけど、一緒にくる?』
「行く!」
『じゃあ、一時に図書館で待ち合わせね』
「了解」
『そろそろ終わりにしようか』
「あ、青井さん、ひとつだけ聞いていい?」
『え? なに?』
「重くない? その、俺って」
『ううん、ぜんぜん。遊木くんと会うのも、話すのも、すごく楽しいよ。重いなんて思ったことないし、全然苦にならない』
「マジで。すげーうれしい。ありがとう。やばっ、泣きそう」
『だめだよ、男の子が泣いたら』
「言葉の綾だって」
『もう、終わんないよ』
「だね。じゃあ、明日、一時に図書館で」
『うん。また明日ね』
「楽しみにしてる」
『わたしも』
「じゃあ、切るね」
『うん』
 通話を切るまでのほんの少しの間のことだった。
 かすかにだが彼女の吐息が聞こえた。
 俺は思わず耳から顔全体が赤くなるのを感じた。彼女がなにげなくしたのであろう吐息の音は、彼女の年齢や年相応の人生経験からすると、信じられないくらい色っぽかった。
 俺は通話を終えてしばらくの間、どきどきしてしまった。参った。眠れるかな。
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