第5話

文字数 716文字

 二度目の告白は少し、ほんの少し余裕をもって言うことができた。
 でも、俺はその言葉にありったけの想いを込めた。
 きみを好きだという気持ちの全てを。
「はい」
 彼女は出会ったあの瞬間と同じように、ぱあっと花が咲いたように顔を輝かせながら答えてくれた。
 しかし、そのすぐ後には、ひとすじ、ふたすじと涙が零れ落ちた。目許をぬぐいながらも涙がとめどなく流れていた。
 どうしよう。
 ここは抱きしめるべきだろうか。
 俺は時間にしては数秒だが、かなり迷ったすえに彼女の肩に手を置いて、そっとやさしく抱きしめた。
 彼女は拒否せずに受け入れてくれた。それだけでもう嬉しくて、俺はそれ以上は力をこめなかった。十分だった。彼女が落ち着くまでそうしていた。
 彼女からは、全身がとろけてしまいそうなほど甘く、かぐわしい香りがする。
 俺は幸せすぎて、何だか世界中に感謝の気持ちを伝えたいほどだった。
「そうだ、名前。名前を聞いてなかった」
 俺はそう言って彼女を離した。実はめちゃくちゃ恥ずかしかったというのもある。
「そういえば、わたしも」
 目許を指先でぬぐいながら彼女も同意する。
 俺たちは思わず顔を見合わせて笑った。そして――
「俺は、遊木青」
「わたしは、青井遊です」
「『あお』って青色の『青』?」
「うん」
「二人とも名前に『青』が入ってるんだ」
「あ、そうか」
「俺は名前に、青井さんは名字に」
「『ゆうき』ってどう書くの?」
「遊ぶに、木」
「わたしの名前の『ゆう』も遊ぶの『遊』なの」
「同じ字が二つも入ってる」
「偶然だね」
 彼女――青井さんがにこりと微笑む。涙のあとの残る顔は驚くほど色っぽかった。そして、白くてきれいな歯並びを見せて笑った。
 やばい。ほんとにかわいい。
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