第43話

文字数 854文字

      6


 俺は第三校舎に続く廊下を急いでいた。
 ホームルームのあと、すぐ帰る支度を始めた俺は担任に急な用事を頼まれた。クラス委員を務める俺に拒否権はない。時計を見てため息をつく。あきらかに青井さんと行き違いになってしまう。仕方なく俺は、クラスメイトの女子に青井さんが教室にきたら「先に部室に行っててほしい」という伝言を頼んで教室を出たのだった。
 担任の用事は少々長引いてしまった。青井さんを待たせてしまったことに罪悪感を覚える。急いで教室に戻り、荷物を抱えてまた教室を飛び出した。しかし、この時もう少し教室の雰囲気に気をつけておくべきだった。 
 廊下を走らないよう気をつけながらも自然と早足になってしまう。そして、第三校舎に入ってからは一気に駆け出した。
 一階から三階まで階段を駆け上がる。そして、一番奥の空き教室――ボードゲーム同好会の部室まで走り抜けた。
 青井さん怒ってないかなと心配になる。呼吸を整えてドアをノックした。
 しかし、返事がない。
 やばい。怒ってもう帰った?
 俺はおもむろにドアを開けた。
 青井さんは、いた。
 椅子の上で膝を抱えて顔を伏せている。
 俺には状況がつかめなかった。
「青井さん」と声をかけようとして絶句した。
 ゆっくりと顔を上げた青井さんの目は、真っ赤だった。
 少し前まで泣き腫らしていたのは疑いようもなかった。
 俺は一瞬、固まってしまった。何が起きたのかわからなかった。
 しかし、すぐに我に返って青井さんに駆け寄った。
「青井さん!」
 俺を見上げる青井さんの瞳は、みるみるうちに潤んでいき、やがて大粒の涙がぽろぽろとこぼれだした。彼女は目許を拭いながらまた顔を伏せた。
「青井さん! 何かあった⁉」
 今度こそ俺は事態を把握した。俺が不在にしている間に彼女を泣かせるような何かがあったのだ。
 なるべく優しく何があったのか聞こうとしたが、頭に血が上っていた俺は冷静さを欠いていた。だから、青井さんが弱々しく口にした言葉に強く反応してしまった。
「遊木くん……同好会辞めていいよ……」
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