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文字数 1,010文字

神社に着いた。
「さて、風太。お前の故郷に着いたぞ。・・・まず、神様にお前の羽がちゃんと治る事を願おうな」
冴が言った。
古びた鳥居の前で一礼をする。
鳥居は苔むして随分古い感じがした。苔どころか普通に草さえ生えていた。
「植物って凄いよね。どこにだって生えて来る」
恵美子が言った。
風太は冴の体から飛び降りると、ちょろちょろと鳥居を登る。そして鳥居の上から羽を開いて飛び立った。斜めになってゆらゆらと不安定に飛びながらもさっきよりも着地が上手く行った。
三人は拍手をする。
冴は風太を拾い上げる。
「偉いぞ。風太」

小さい社は白茶けていた。社の前の狛犬はやけに大きい。片方の狛犬には子供の狛犬が付いていた。風太は神社を見ている。
冴はからんからんと鈴を鳴らして社の前で頭を垂れた。拓郎と恵美子も手を合わせて祈った。
風太は冴の体から飛び降りると神社に這い上がる。
柱を駆け上がり、そしていつぞやの様に屋根の天辺まで登って行った。三人は風太の姿が見える所まで下がる。
「風太。いくら何でもそれは高過ぎだ。お前にはまだ無理だ」
拓朗が言った。
「大丈夫だ。風太。飛んでみろ。落ちたら兄ちゃんが助けてやる」
冴が叫んだ。
風太の羽がさわさわと開いた。日の光できらきらと輝く。
その時、ごおっという風が吹いた。突然の風は木々を揺らし土埃を舞い上げ通り過ぎる。三人は慌てて顔を伏せ、風に背を向ける。
一瞬の風が通り過ぎ、神社の屋根には風太の姿は無かった。三人は慌てて風の先を見る。風の先は何処までも続く深い山だ。どこにも風太の姿は見えなかった。

冴は走り出し境内や鳥居の向こうに風太の姿を探した。
「風太。風太」と大声で呼びながら探し回る。涙が溢れて来た。
拓郎も恵美子も近くの木の上や叢の中を探す。

風太は今の風できりきり舞いに落ちて地面に叩きつけられたのでは無いか。
どこかの木に引っ掛かって羽が破れてしまったのでは無いか。風太は羽が引っ掛かって木から降りられないでいるのでは無いか?
そう思うといても立ってもいられなかった。

何かきらりと光る物が恵美子の目の端に映った。遠い向こうで。それは只の目の迷いだったかも知れない。でも、恵美子はその場所を指差して言った。
「冴さん。今、あそこの森で何かが光った。きっと風太の羽だよ。
大丈夫。風太は風に乗って飛んだんだよ。風太は風に乗って山に帰ったんだ。風太の事は神様が守ってくれるよ」
冴は涙を流したまま恵美子の指差した方向を見詰めた。





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