文字数 1,188文字

「間も無く目的地付近です。運転お疲れ様でした」
ナビはそう言って案内を終了した。

だがしかし、山々に囲まれた、のどかな田園地帯にそれらしき神社は見当たらなかった。
僕達は車を降りた。
げこげことカエルの合唱が聞こえる。
「音さん。・・・あそこに鳥居がある」
柏木が指を差して言った。
「だって、あれ・・・神社なの?鳥居しか無いけれど・・」
僕は言った。

田んぼのど真ん中に円墳みたいな小山があって、そこに鳥居だけがぽつりとあった。
「あれって、あの、円墳的なモノを祀っているんじゃないの?・・・ちょっと、(ちが)くない?」
僕は言った。
「いや、完璧、違うでしょう。肝心の社が無い」
柏木は本の写真と神社を見比べる。
「音さん、道、間違ったんじゃないんですか?」
「いや、ナビの言う通りにやって来た」
「おかしいなあ・・・」
「あの古墳的なモノ、田んぼの中の畦道を通って行けば行けますね」
「・・・まあねえ」

農作業の村人が怪訝な顔で僕達を見て行く。
こんな田圃の真ん中でいかにも場違いな二人組。

げこげこげこげこ・・・げこげこげこ・・。


「ちょっと貸して」
僕は本のページをよく見てみた。
「何だよ。山の頂上付近にあるって書いてあんじゃん」
「・・・本当だ」
僕は更に細かく読む。
「・・・柏木。駐車場から歩いて神社まで40分って書いてあるけど・・」
「うーん・・・」
「全然違うじゃん!」
「いや、名前で入れたんだけれどなあ・・・大体の場所も合っていたし・・・」
「住所が出ている。それで検索してみよう」
僕達は車に戻ってナビで再検索を掛けてみた。

目的地はここでは無かった。もっと先だった。
僕は前に見える山を指差した。
「あの山の辺りだな。・・・何だよ。だったら何でここへ案内したんだよ」
僕はナビに文句を言った。
「使えない奴だな」
「・・もしかしたら、分社ですかねえ・・あれが」
柏木は視線を古墳に向けて言った。
「いや、そんな感じじゃ無いけれど・・・」
僕も視線を向ける。

げこげこげこげこ・・・げこげこ・・
カエルの歌に脳みそが癒される。

「・・・前もこんな事ありましたよね。美紀さんと三人で出かけて」
柏木が言った。
「神社に行こうとして。案内されたところに何もないのに、『目的地に着きました』って・・・・覚えていますか?」
「げ・・うん」
僕は答えた。
柏木は訝し気に僕を見たが、そのまま言葉を続けた。
「何も無くて、集会所みたいのがぽつりとあって・・」
僕は言った。
「神様に呼ばれていないと言う事なのかなあ」
「さあ・・?」
柏木は首を傾げた。

「げこげこげこ」という鳴りやまないバックミュージックの中で僕達は考える。

「日帰り温泉でも行って東京へ帰るか?」
僕は言った。
幸先が良くない感じがする。
「呼ばれてなくても行きましょう。だって、4時間近く掛けてきているのだから。もう少しじゃないですか。さて、行きますよ。ここからは俺が運転しますから」
そう言うと柏木は車を回した。


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