13
文字数 1,846文字
「・・・背負ってもいいけれどさ、僕達徒歩で行くの? ずっと? ねえ、どうせ貸してくれるなら亀よりも龍の方がいいな」
「龍はのう・・・・難しいのう」
「龍は気性が荒いのじゃ。お前達には手に負えぬ。昔、頼まれてちょっと貸し出したのだがのう。国をひとつ破壊しおった。えらい事になってしまって、儂はその後始末に大変な思いをしたのじゃ。とんでもない損害賠償を請求されて・・・。龍を連れて行ったら行く先々で全てを破壊しまくって、どこもかしこも廃墟となる。」
「だからって、亀って酷くない?」
「賢い亀じゃ」
・・・。
「性格も温和じゃ」
「ふうん・・・じゃあ、そいつがサルか」
狐は言った。
「もう一つは?」
僕は言った。
チームは桃太郎を含め、4人でなくてはならない。
何の根拠も無いが僕はそう思った。それはある意味、僕をこんな任務に無理やり引き入れた弁財天神使のおばあに対するささやかな反抗だったのかも知れない。
だがしかし、この場合、狐が桃太郎であるなら、このチームは人間不在の動物だらけのチームとなるのだが・・・。
「キジがいない。キジ。空を飛ぶヤツ」
僕は言った。
「キジか・・・そうじゃのう・・。では、睡蓮池の第一神使殿に言って、迦陵頻伽 を貸して頂こう」
「迦陵頻伽!」
狐が言った。
狐はそう言ったきり固まった。
「迦陵頻伽? 何? それ」
「鳥じゃ」
「鳥?」
「そう、胸から上は天女じゃ。それはそれは美しい女子よ。じゃが半身は鳥じゃ。妙なる楽を奏でながら空を舞う」
「楽?」
「笛を奏でるのじゃよ」
「へー」
「迦陵頻伽が空を舞うと天から花が落ちて来るのじゃ」
「へー。すごい」
「では、ちょっと待っておれ。今から睡蓮池に行って、睡蓮池の神使殿に申し入れて来るでのう」
そう言って鯉のおばあはぱたぱたと社に向かった。
後に残った僕と狐は何となく気まずい感じでその場に突っ立っていた。
「迦陵頻伽って、狐さんは見た事があるのですか?」
僕は恐る恐る声を掛けた。
「睡蓮池の弁財天様の神獣なんだ。めちゃくちゃ綺麗なんだけれど・・・めちゃくちゃ怖い」
「えっ?」
僕は唖然とした。
「豆しばなんか一飲みだ」
「ええっ!!」
「迦陵頻伽はしゃべらないんだ。言葉を持たないんだ。・・・迦陵頻伽がしゃべったら・・」
「迦陵頻伽がしゃべったら?」
僕は狐の言葉を繰り返した。唾をごくりと飲む。
「地獄の釜の蓋が開くと言われている」
狐が厳かに言った。
「えええっ!!」
僕はそう言ったきり、言葉が出なかった。
沈黙が訪れた。
コオロギの「ころころコメオ、ころころコメオ・・・」と鳴く声だけが響いていた。
どこか遠くから音楽が聞こえて来た。遠い空の向こう。
空高く影がぽつりと浮かんだ。それは次第に近付いて来る。
大きな羽をはばたかせ、薄絹の衣をまとい、現れたそれは優雅に空を舞う。ひらひらと虹色の布が流れる。
迦陵頻伽の舞う姿は夜空のお月様とコラボして、まるでこの世のものでは無いみたいに美しく幻想的だった。
僕はぼーとそれを見上げた。
花が一輪落ちて来た。白い花だ。花は次から次に落ちて来る。妙なる音楽は僕をうっとりとさせた。
ああ、何て綺麗なんだ。
「迦陵頻伽さーん」
僕は思わず大きな声で呼びかけた。
「ここだよー」
僕は大きく手を振った。
「ば、馬鹿! 呼んじゃ駄目だ」
狐が慌てた。
「えっ、何で?」
僕はきょとんとした。
迦陵頻伽が下りて来る。色々な色の花がぱらぱらと降って来る。どんどん姿が大きくなって・・。
うん? ちょっと待って? 大き過ぎないか?
黒い髪を結い上げて花で飾ってあるその顔が微笑んだのが見えた。それは正しくアルカイック・スマイルだった。だが、僕は、そんな事に構っていられなかった。
「うわあ!!」
僕と狐は慌てて逃げた。
大きな羽がばさばさと鳴って辺りの木々が大きく揺れた。僕達は思わず体をかがめた。
どかんと音を立てて大きな足が地面に食い込んだ。
その衝撃で僕と狐は転がった。
迦陵頻伽の片足はベンチを踏み潰した。片足は樹木を踏み潰していた。固そうな羽に覆われた逞しくもぶっとい足。
鋼鉄仕様とも思われる3本の鋭い爪・・・そんな爪が地面に食い込んでいる。
「・・・・」
僕達はしりもちを付いて、そのまま迦陵頻伽を見上げた。切れ長の目が僕達を見詰める。紅い唇がふふっと笑った。その神々しい顔を見て、僕はあわあわと狼狽え、思わずおしっこを漏らすかと思った。
すっと優雅に背筋を伸ばした迦陵頻伽は社の鳥居よりも大きかった。
了 または 続
「龍はのう・・・・難しいのう」
「龍は気性が荒いのじゃ。お前達には手に負えぬ。昔、頼まれてちょっと貸し出したのだがのう。国をひとつ破壊しおった。えらい事になってしまって、儂はその後始末に大変な思いをしたのじゃ。とんでもない損害賠償を請求されて・・・。龍を連れて行ったら行く先々で全てを破壊しまくって、どこもかしこも廃墟となる。」
「だからって、亀って酷くない?」
「賢い亀じゃ」
・・・。
「性格も温和じゃ」
「ふうん・・・じゃあ、そいつがサルか」
狐は言った。
「もう一つは?」
僕は言った。
チームは桃太郎を含め、4人でなくてはならない。
何の根拠も無いが僕はそう思った。それはある意味、僕をこんな任務に無理やり引き入れた弁財天神使のおばあに対するささやかな反抗だったのかも知れない。
だがしかし、この場合、狐が桃太郎であるなら、このチームは人間不在の動物だらけのチームとなるのだが・・・。
「キジがいない。キジ。空を飛ぶヤツ」
僕は言った。
「キジか・・・そうじゃのう・・。では、睡蓮池の第一神使殿に言って、
「迦陵頻伽!」
狐が言った。
狐はそう言ったきり固まった。
「迦陵頻伽? 何? それ」
「鳥じゃ」
「鳥?」
「そう、胸から上は天女じゃ。それはそれは美しい女子よ。じゃが半身は鳥じゃ。妙なる楽を奏でながら空を舞う」
「楽?」
「笛を奏でるのじゃよ」
「へー」
「迦陵頻伽が空を舞うと天から花が落ちて来るのじゃ」
「へー。すごい」
「では、ちょっと待っておれ。今から睡蓮池に行って、睡蓮池の神使殿に申し入れて来るでのう」
そう言って鯉のおばあはぱたぱたと社に向かった。
後に残った僕と狐は何となく気まずい感じでその場に突っ立っていた。
「迦陵頻伽って、狐さんは見た事があるのですか?」
僕は恐る恐る声を掛けた。
「睡蓮池の弁財天様の神獣なんだ。めちゃくちゃ綺麗なんだけれど・・・めちゃくちゃ怖い」
「えっ?」
僕は唖然とした。
「豆しばなんか一飲みだ」
「ええっ!!」
「迦陵頻伽はしゃべらないんだ。言葉を持たないんだ。・・・迦陵頻伽がしゃべったら・・」
「迦陵頻伽がしゃべったら?」
僕は狐の言葉を繰り返した。唾をごくりと飲む。
「地獄の釜の蓋が開くと言われている」
狐が厳かに言った。
「えええっ!!」
僕はそう言ったきり、言葉が出なかった。
沈黙が訪れた。
コオロギの「ころころコメオ、ころころコメオ・・・」と鳴く声だけが響いていた。
どこか遠くから音楽が聞こえて来た。遠い空の向こう。
空高く影がぽつりと浮かんだ。それは次第に近付いて来る。
大きな羽をはばたかせ、薄絹の衣をまとい、現れたそれは優雅に空を舞う。ひらひらと虹色の布が流れる。
迦陵頻伽の舞う姿は夜空のお月様とコラボして、まるでこの世のものでは無いみたいに美しく幻想的だった。
僕はぼーとそれを見上げた。
花が一輪落ちて来た。白い花だ。花は次から次に落ちて来る。妙なる音楽は僕をうっとりとさせた。
ああ、何て綺麗なんだ。
「迦陵頻伽さーん」
僕は思わず大きな声で呼びかけた。
「ここだよー」
僕は大きく手を振った。
「ば、馬鹿! 呼んじゃ駄目だ」
狐が慌てた。
「えっ、何で?」
僕はきょとんとした。
迦陵頻伽が下りて来る。色々な色の花がぱらぱらと降って来る。どんどん姿が大きくなって・・。
うん? ちょっと待って? 大き過ぎないか?
黒い髪を結い上げて花で飾ってあるその顔が微笑んだのが見えた。それは正しくアルカイック・スマイルだった。だが、僕は、そんな事に構っていられなかった。
「うわあ!!」
僕と狐は慌てて逃げた。
大きな羽がばさばさと鳴って辺りの木々が大きく揺れた。僕達は思わず体をかがめた。
どかんと音を立てて大きな足が地面に食い込んだ。
その衝撃で僕と狐は転がった。
迦陵頻伽の片足はベンチを踏み潰した。片足は樹木を踏み潰していた。固そうな羽に覆われた逞しくもぶっとい足。
鋼鉄仕様とも思われる3本の鋭い爪・・・そんな爪が地面に食い込んでいる。
「・・・・」
僕達はしりもちを付いて、そのまま迦陵頻伽を見上げた。切れ長の目が僕達を見詰める。紅い唇がふふっと笑った。その神々しい顔を見て、僕はあわあわと狼狽え、思わずおしっこを漏らすかと思った。
すっと優雅に背筋を伸ばした迦陵頻伽は社の鳥居よりも大きかった。
了 または 続