第4話

文字数 1,311文字

君との待ち合わせの日が本当に待ち遠しかった。
あれから、どれだけの時間が経っただろう。
僕にとっては再会でもあり、新しい僕になってからの初対面でもある。
前日は必死に眠ろうとしたけど、君に会えると思うとほとんど寝られなかった。
できるだけ良いコンディションで会いたかったけど、目の下には少しクマができていた。
まぁ、眼鏡で隠せる程度だけど。
当日は待ち合わせの噴水が見えるカフェで君がやってくるのを待った。
待ち合わせの1時間前からずっと。
きっと君は早めに来るだろうから、待っている君をずっと見ておきたかった。
君は人を待たせるのが嫌なタイプだからきっと30分前くらいには来るはずだと思っていたけど、やはり予想通り。
目印として教えてもらっていたブルーのリュックにカーキ色のワンピース。
相変わらず、持ち物のセンスもいい。
時計を確認しながら噴水の前のベンチに腰掛けると、携帯を操作し始める。
時々、リュックの中身を確認しては暇そうにしている。
そんな君も可愛い。
しばらく君を見ていたけど、少し離れたところから君を指さしながらニヤニヤしている2人組を見つけた。
君がナンパでもされたら耐えられない。
少し早いけど僕はカフェを出て、君のもとへと走った。
君との再会は誰にも邪魔させない。
少し立ち止まって息を整えると、君に目印として教えていた黒地に大きな白い星が入った紙袋を手に持って、君の前へと進んでいく。
ふっと僕を見上げた君の顔は、あの頃とちっとも変わっていなかった。

「すみません。ポチ子さんで間違いないでしょうか?」
「えっ、あっ、はい!ポチ子です。ええと……カオルさんですか?」
「はい、カオルです。はじめまして。いつもお世話になっております」
「こちらこそ、いつもお世話になっています。はじめまして」

眩しいくらいの笑顔。
そうやって愛嬌を振りまくところも変わっていない。
仮に仕事であっても、誰にでもそういうことはしちゃダメだと僕は何度も言っていたのに。

「さっそくですが、お渡ししたい本はこちらです。少し重たいので気を付けてください」
「あ、はい。ありがとうございます。わぁ、分厚いですね。読むのに時間がかかってしまうかもしれませんけど、大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません。他にも同じような案件があるのですが、毎回こういう形でお願いしてもいいでしょうか?次の本を渡すときに、今日お渡しした本を返却していただければいいので」
「わかりました。呪術は個人的にも興味があるので、とても楽しみです」
「それはよかったです。これとは別にまたお願いしたい記事もあるので、またサイトのほうからお伝えしますね。納期はいつでもいいですから」
「本当にいつもありがとうございます」
「いえいえ、こちらも助かっていますので。では、今日はこれで」
「ありがとうございます。では、また」

やっと君と会えた。
やっと君と話せた。
僕に笑顔を向けてくれた。
触れたかった。
抱きしめたかった。
君と別れてから家に帰るまで、湧き上がってくる衝動でおかしくなりそうだった。
この衝動に耐えながら、しばらくは本を手渡すだけの関係を続けなければいけない。
仕事にかこつけて出会いを求めている輩と同類だと思われないように。
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