第8話

文字数 977文字

付き合うようになっても、そこまで大きな変化はない。
お互いのことを下の名前で呼ぶようにはなったものの、仕事の発注者と受注者という関係は変わらないし、強いて言えば仕事半分デート半分で出かけることが多くなったくらいだ。

付き合って2か月くらい経ってから、僕は家に君を招き入れた。
少し緊張していたけど、何も起こらずにほっとしているような、少し残念そうな君が愛おしかった。
部屋も君が気に入るよう、ひとつひとつ家具から選んだ。
もちろん、掃除もこまめにして、部屋もベッドも清潔な状態にしている。

付き合い始めて3か月が経った頃、僕と君は大きめのソファーでそれぞれ読書を楽しんでいた。
僕は小説を、君は図鑑を。
チラチラと僕を見ているなと思ったら、君が口を開いた。

「薫さんって実はゲイだったりします?」
「……突然何ですか。まったく意味がわからないんですが」
「だって……キスもまだですし、全然何もしてこないから。カモフラージュで付き合う場合もあるって聞いたことがあるので……」
「はぁ……」

読んでいた小説をパタンと閉じ、君に向き合う。

「それはつまり、何かしてもいいということですか?」
「あっ、えっと……ま、まだダメです」
「……まだというのは?」
「えっと、その……前に生理がおかしくなっちゃって産婦人科に行ったことがあるんです」
「それは……問題なかったんですか?」
「はい、ストレスでおかしくなっちゃってただけで。診察のときに先生にいろいろ聞かれて昔のことも全部正直に話してたら、めちゃくちゃ怒られたんです。『付き合ってそういうことするならまずはお互いに性病の検査をしなさい!日本人は認識が甘すぎる!』って」
「なるほど」
「だから、その……お互いに検査してから、し、したいなと思ってまして……」
「……わかりました。すぐに手配しましょう。カップル用の検査キットでいいですか?」
「えっ、あ、はい。でも……いいんですか?」
「その先生がおっしゃることはもっともです。そのほうが安心していろいろできますから」
「いろいろ……」
「せっかくならできるだけ検査項目の多いものにしておきましょうか。私のほうで費用も負担しますから」
「ふふふ、ありがとうございます」

そうやってすり寄られると理性が飛びそうになる。
キットは取り寄せて数日で届いた。
お互いに必要なものを返送して、さらにそこから一週間ほどで結果が出た。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み