第20話 ジョー・グリーン

文字数 2,451文字

 ジョー・グリーンはどんどん仕事に慣れて行った。ジョーは短時間で学び、話をよく聞いて気をつける性格だったので、ジョンは多くのことについてジョーを信頼するようになっていったが、僕が言ったように、ジョーはこの年齢にしては背が低かったので、ジンジャーや僕の運動を任されるのはほぼなかった。だが、ある日の朝、ジョンはジャスティスに荷馬車を引かせて出かけていたところへ、ご主人様がすぐに紳士クラブへ手紙を届けてほしいとやって来られた。紳士クラブへの距離は五キロ弱ほどで、指示を受けたジョンは僕に鞍を置き、気をつけながらしっかりまたがった。
 手紙を届けたあと、僕たちは静かに引き返し、レンガ工場のところまでやってきた。そこで僕たちは、重いレンガをたくさん積んだ荷馬車を見かけたのだが、その馬車の車輪は、深い轍の中に詰まった硬めの泥にはまり込んでしまっていて、荷馬車の御者は二頭の馬に情け容赦なく怒鳴り声や鞭を浴びせていた。ジョーは僕を止まらせた。それは悲しい光景だった。二頭の馬は荷馬車を引っ張り出そうと力いっぱい格闘していたが、荷馬車は動かせない。汗が滝のように馬たちの脚と脇腹を流れ落ち、息は苦しそうで、どの筋肉も張り詰めているのだが、その間も男は、片方の馬の頭を猛烈に引き上げると、ののしって乱暴に鞭で叩いた。
「待って」ジョーが言った。「馬をそんなに鞭で叩くのはやめてください。車輪が轍にはまり込んでいるから、荷馬車を動かせないんです」
 その男はまったく気にした様子を見せず、鞭で叩き続けた。
「やめろ! 頼む、やめてくれ!」ジョーは言った。「荷馬車を軽くするのを手伝います。このままでは動かせません」
「お前にゃ関係ないよ、生意気なクソガキ、俺は自分のことで手一杯なんだ!」男はかんしゃくを起こし、酒も入っているのか始末に終えない。そしてまた鞭を振り上げた。ジョーは僕の向きを変え、次の瞬間、僕たちはさっと襲歩(ギャロップ)でレンガ工場の工場長の家へと向かった。ジョンがこの速度に同意してくれたかどうかはわからないが、ジョーと僕の気持ちはひとつだったし、とても怒っていたから、速度を緩めたりはしなかった。
 工場長の家は道路沿いに建っていた。ジョーはドアを叩き、それから叫んだ。「こんにちはあ! クレイさんはいらっしゃいますか?」ドアが開き、クレイさんが出てきた。
「やあ、若いの。ずいぶん急いでいるようだね。今朝は地主さんの用事かい?」
「いいえ、クレイさん、そこであなたの工場の人が、二頭の馬を死なせかねない勢いで鞭で叩いてるんです。やめるように言いましたが、やめてくれません。荷馬車を軽くする手伝いを申し出ましたが、それもダメでした。なのでここに話に来たんです。お願いします、行ってください」ジョーの声は強い感情で震えていた。
「ありがとう、ちびさん」クレイさんは、帽子を取りに行きながらそう言った。それから、つかの間動きを止める。「そいつを治安判事の前に引っ張り出したときは、君の見たことを証言してくれるかい?」
「やらせてもらいます」ジョーは言った。「喜んで」そしてクレイさんは行ってしまい、僕たちはきびきびした速歩(トロット)で家路に着いた。
「おや、ジョー、何かあったのかい? ひどく怒ってるみたいだ」鞍から滑り降りるジョーの前で、ジョンがそう言った。
「僕はかんかんに怒っていますし、理由も話せます」ジョーは言って、熱の篭った早口で何があったのかを話した。ジョーは普段なら物静かで優しい小さな少年なので、こんなに興奮しているのを見るのは珍しかった。
「そうだ、ジョー! お前は正しいことをしたんだよ、そいつが法廷に引っ張り出されるかどうかは関係なく、な。そういう奴らは、なんの権利があって邪魔するんだって言ってくる。今俺に言えるのは、そういう残酷さや迫害は、目撃したすべての人にやめろと言う権利があるってことだ。お前は正しいよ、ちびすけ」
 ジョーはこのころにはすっかり落ち着いていて、ジョンが認めてくれたことを誇らしく思い、普段よりしっかりした手つきで僕の足を掃除して身体を綺麗にしてくれた。
 ジョンとジョーがちょうど夕食を取りに以降としたとき、従僕が馬小屋にやってきて、ご主人様がジョーに私室に直接来てほしがっていると告げた。そこには馬たちにひどいことをしていた男が連れて来られていて、ジョーの証言が求められていたのだ。ジョーは額まで真っ赤になっていたが、目は輝いていた。「すぐに行きます」ジョーは言った。
「ちょいと身支度をしな」ジョンは言った。ジョーはネクタイを引っ張って直し、上着の皺を伸ばしてから、すぐに向かった。僕たちのご主人様は州の治安判事のひとりで、問題解決や先行きを決めるために事件が持ち込まれるのはよくあることだった。男の人たちの食事の時間になってしまったので、馬小屋ではしばらくそれ以上の話は聞けなかったが、次にジョーが馬小屋にやってきたとき、僕はジョーが意気揚々としているのを見て取った。ジョーは僕を優しくぱしんと叩いて、こう言った。「あんなことが起きるのは見たくないよな、だろ? ビューティー兄ちゃん?」あとになって聞いたのだが、ジョーは見たままをはっきりと証言し、馬たちもひどく消耗していて、あちこちにむごい暴力の跡が残っていたため、荷馬車の男は裁判にかけられることとなり、おそらくは二ヶ月から三ヶ月は刑務所に入る可能性が高そうだということだった。
 ジョーに起きた変化は素晴らしかった。ジョンは笑い、この週で三センチは背が伸びたんじゃないかと言ったが、僕もそう感じた。ジョーは今までと同じように優しく誠実だったが、今までよりも目的意識と決意を持って行動するようになった――例えて言うなら、ジョーは一気に少年から青年になったようだった。


訳者注:イギリスでは1822年に、リチャード・マーティンという議員さんが、イギリス初の「動物虐待防止法」を成立させました。この男性はおそらくこれにひっかかったものと思われます。
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