むかしばなし その5

文字数 1,103文字

 炎の悪魔は、人々を苦しめます。

 病に倒れる人、嵐のために怪我をする人。苦しめられる人はどんどんと増えていきます。

 炎の悪魔を止める者は誰もいません。

 しかし、炎の悪魔は街の一箇所を避けてとおりました。それは、ボロボロになった家屋です。中はたくさんの病人やけが人で溢れています。避ける理由が分かりません。

「なぜ、あなたは、あの場所を避けるのですか?」

「あそこは、もう我の力で弱っておる。これ以上あえて行う必要はない」

「それはおかしなことです。あなたは弱っている人であっても関係なく力を振るっていたではありませんか?」

「これ以上は必要ないと云っているのだ! 何度も何度も、あそこにいる者たちに力を振るって、痛めつけている。それにも関わらず、どんな病や災厄があっても、あの者たちは、我に従わない。それどころか、何度でも病を治し、家を建て直し、立ち直り、我の前に立ち塞がるのだ。そのたびに、我に痛めつけられるにもかかわらず。我が奴らより力があることは変わらない。証明済みだ。だから、もう良いのだ」

「うーん」男は首を傾げます。「それは、あなたがあの人たちに勝てなかったと云うことですよね? つまり、負けたのです」

 炎の悪魔は何も云わない。

「残念です。あなたは世界最強ではなかったのですね。私はあの人たちのところに行きます」

 茫然とする炎の悪魔に、男は背を向けた。悪魔より強い人々のところへ向かう。

「あなた方は、悪魔よりも強い方たちなんですね。ぜひ、私を仲間にしてください。教えをください」

「私たちは全然強くないですよ?」病人やけが人たちを世話している一人の少女が答えた。「誰かと勘違いされているのではないですか?」

「いいえ、あなたたちは悪魔の起こす病や災害が何度起ころうとも、くじけずに立ち上がります。それは、悪魔よりも強いと云うことです。その強さの秘密を教えてください」

「だから、私たちは強くないですよ」

「では、なぜ、負けないのですか? 見れば、あなた自身も、食べ物がなくて困っているように見えます。それなのに、どうして、病人やけが人に食べ物を分けているのですか?」

「そうですね」少女は、手にしたシンボルを見ながら云った。「私たちは強くはないですが、強いお方を知っているからかもしれません。私たちは、そのお方に、くじけないこと、人に優しくすることを教えていただいたのです」

「なんと! そのお方は、どこにおられますか? やっと分かりました。私は、そのお方とお会いするために生まれたのです!」

 男はついに世界最強を見つけたと思い叫びました。
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登場人物紹介

『王様

自分が世界最強の格闘技をやりたいためだけに

『物理セキュリティマネジメント研究会』を立ち上げた。

ちなみに一切、格闘技の経験はない。

格闘技知識は主に劇画や書籍。

空想的強くなりたいガール。

『カラテカ』

高校入学前に空手をやっていたけれどいろいろあってやめた。

自由な放課後女子高生ライフ!

と、思っていたら、格闘技経験がバレて王様に『セマネ研』に入れられた。

本編の語り部。

ちなみに何時も判定狙いなので試合展開は地味。

現実的強くなりたかったガール。

『ゲーマー』

王様の隣の席にすわっていたのが災いして『セマネ研』に入れられた。

基本、無口でゲームばかりしている。

実は数々のオンラインゲームで殺戮を繰り返し

『オーガ』と呼ばれている『達人』ゲーマー。

仮想的強いガール。

『聖女様』

王様が『人が足りない』と泣く振りをして連れてきた美しく淑やかな学園の人気者。

場に似つかわしくないようだけれどよく見ると毎週購入している雑誌は

男同士が熱く体をぶつけ合う(非BL)ものばかり…。

とある深夜番組はリアルタイム視聴を欠かせない。

最近昭和の強豪が鬼籍に入ることも多くちょっとメランコリー気味な

幻想的強さ大好きガール。

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