『聖女様』、プロフェッショナルな流儀について語る。
文字数 1,434文字
『聖女様』の長いストレートの髪が揺れた。まるで激しい動きがあったようだった。流れる髪の向こう側に見える容貌は、『王様』にひけを取らないほど美しいものだった。いや、『王様』は美しいと云うよりもかわいらしい。『聖女様』は美しいのだ。そして、美しさによくある攻撃的な鋭さはどこにもない。静謐な美しさはまるでイコンの聖母像のよう。物静かで、優しげな容貌のため、学校内では『聖女様』と崇める人々もいる。私も崇めるまでは行かないまでも、尊い人だと思っている。
なぜ、そんな『聖女様』が得体の知れない我が研究会にいるのだろうか。それは『王様』のせいに他ならない。同好会・研究会を作るためには最低四名のメンバーが必要だった。大人しい『ゲーマー』は『王様』の魔の手から逃れることは無理と云うものだった。あまりに人の良い『聖女様』は「人が足りないのです。助けてください!」と、云えば、なんの部活か理解もせずに参加してくれるのは目に見えている。無限の善意を利用する暴君の『王様』
そんな優しいおしとやかな『聖女様』が、大きな音を立てるとは意外だった。
「お二人とも」やや低めのささやくような声。心地良い響きだ。「何かを検討するときは、可能性を全部検討しないといけないのではないですか。偏見なくすべての可能性を考える。それが真実に向かう唯一の道ですよ」
「なるほど、そのとおり!」直情径行な『王様』は、良さそうな意見にすぐに乗ってくる。でも……「何を検討するの? 検討漏れの事項ってあったかな?」
何があったのだろうか? 意に反して『王様』に同意してしまう。
「……だからですね」ちょっと語尾があがった。「方向性が違うと切り捨ててしまった部分です」
「えー、なんだったっけ? ああ、プロレス? うーん、今はリアルなことを話しているから」
『聖女様』は、談話室の壁に設置されていた本棚から一冊の本を取り出してきた。本棚には、『王様』が買い集めた格闘技関係の本がたくさん置いてある。(『王様』の実家はお金持ちなのだ。それこそリアルで『王様』である)だが、『聖女様』が手にした本は見慣れないものだった。
「例えばこれ!」本を広げた。そこでは男が血だらけになっている。流血は額から出ているのだろう。毒々しい赤が男の肉体でシャワーのように流れていた。「この血は、偽物ではありません。まさにリアルじゃないですか?」
『王様』は『聖女様』から本を奪い取るように自分の手元に寄せた。
「すごい血! たしかにすごいし、この血は本物かもしれないけれど……別に、血が本物かどうかは興味ないし……」
「では、これはどうですか?」と、今度は『聖女様』が本を奪い取った。開いたページにはリングの上に大の字になっている男がいる。いや、足は閉じているから大の字というか、十の字? そして、空中をとんだ二〇〇キロはあるだろう大きな男が、リングの男に向かって飛び込んでいる写真だった。
「この攻撃を受ける男の覚悟。それは本物ではないですか?」
「たしかに、こんな攻撃を受けたら死んでしまうかもしれない。……でも、避ければいいんじゃないの?」
「攻撃を避けたらダメじゃないですか」『聖女様』は云った。
「攻撃を受けたらダメじゃない」と、『王様』は云った。
「え!」「え!」
噛み合わない二人。
「……では、これはどうでしょうか?」
自身の携帯端末の画面を私たちに見せてくれた。
なぜ、そんな『聖女様』が得体の知れない我が研究会にいるのだろうか。それは『王様』のせいに他ならない。同好会・研究会を作るためには最低四名のメンバーが必要だった。大人しい『ゲーマー』は『王様』の魔の手から逃れることは無理と云うものだった。あまりに人の良い『聖女様』は「人が足りないのです。助けてください!」と、云えば、なんの部活か理解もせずに参加してくれるのは目に見えている。無限の善意を利用する暴君の『王様』
そんな優しいおしとやかな『聖女様』が、大きな音を立てるとは意外だった。
「お二人とも」やや低めのささやくような声。心地良い響きだ。「何かを検討するときは、可能性を全部検討しないといけないのではないですか。偏見なくすべての可能性を考える。それが真実に向かう唯一の道ですよ」
「なるほど、そのとおり!」直情径行な『王様』は、良さそうな意見にすぐに乗ってくる。でも……「何を検討するの? 検討漏れの事項ってあったかな?」
何があったのだろうか? 意に反して『王様』に同意してしまう。
「……だからですね」ちょっと語尾があがった。「方向性が違うと切り捨ててしまった部分です」
「えー、なんだったっけ? ああ、プロレス? うーん、今はリアルなことを話しているから」
『聖女様』は、談話室の壁に設置されていた本棚から一冊の本を取り出してきた。本棚には、『王様』が買い集めた格闘技関係の本がたくさん置いてある。(『王様』の実家はお金持ちなのだ。それこそリアルで『王様』である)だが、『聖女様』が手にした本は見慣れないものだった。
「例えばこれ!」本を広げた。そこでは男が血だらけになっている。流血は額から出ているのだろう。毒々しい赤が男の肉体でシャワーのように流れていた。「この血は、偽物ではありません。まさにリアルじゃないですか?」
『王様』は『聖女様』から本を奪い取るように自分の手元に寄せた。
「すごい血! たしかにすごいし、この血は本物かもしれないけれど……別に、血が本物かどうかは興味ないし……」
「では、これはどうですか?」と、今度は『聖女様』が本を奪い取った。開いたページにはリングの上に大の字になっている男がいる。いや、足は閉じているから大の字というか、十の字? そして、空中をとんだ二〇〇キロはあるだろう大きな男が、リングの男に向かって飛び込んでいる写真だった。
「この攻撃を受ける男の覚悟。それは本物ではないですか?」
「たしかに、こんな攻撃を受けたら死んでしまうかもしれない。……でも、避ければいいんじゃないの?」
「攻撃を避けたらダメじゃないですか」『聖女様』は云った。
「攻撃を受けたらダメじゃない」と、『王様』は云った。
「え!」「え!」
噛み合わない二人。
「……では、これはどうでしょうか?」
自身の携帯端末の画面を私たちに見せてくれた。