『王様』、『聖女様』のつっこみに追い詰められて逆ギレする。
文字数 1,849文字
「え?」『王様』は固まった。「投げられて地面に倒れていた……とか」
「そうなると、空き地には倒れていた跡があっても良いのではないですか?」
『聖女様』の突っ込みは激しい。
「それに、聞こえてきた音はなんだったのでしょうか?」
「一人でイメージトレーニングをしていた……次には『額に傷のある男』を倒すための」
だんだん話に無理が出てきた。
「別にいいじゃないの!」『王様』は激高して腕を大きく振り上げる。「それ重要? もっと大切なことがあるでしょう! 私たちには!」
けんか腰に、『聖女様』に近づく。すると、大きくあげた腕を下ろそうとしたところ、それは『聖女様』向かってしまっていた。
私は、危ないと思い飛び出そうとする。しかし、一瞬のことなので、動きが遅れる。『王様』の手を止めることは無理だ。
次の瞬間、大きな音が聞こえた。何かにあたる大きな音。
「今、重要なのは、落ち着いて帰宅することかな」
神父様は、『王様』に優しい声で語りかけた。その手は、『王様』の手を掴んでいた。いつの間に……。神父様は、離れた所で座っていたと思ったのだけども。
「面白い話ですが、結局、その当人たちに聞かないと分からないことです。そうムキになって議論することでもないのではないですか?」
『王様』は、神父様の手から、自分の腕を抜く。少し反省したのか、声のトーンはやや低くなっていた。
「でも、なんか気になりますよ」
「なるほど……」神父様は『王様』の腕を握ってた手を、自身の顎に添えた。「では、こう考えてはどうでしょうか? あなたの云うことは半分だけ正解だった」
「どう云うことですか?」
「つまり、額に傷のある男は、逃げたわけではないと、云うことです」
神父様は、ゆっくりと語る。
「なぜ、髭の男は二〇分、空き地から出てこなかったか。それは、空き地にいる必要があったんですよ。どんな? 決闘――というにはおおげさですかね。果たし合いだとしましょうか。この果たし合いに必要なものは何でしょうか? あなたが果たし状を書くとしたら、どんな情報を記します?」
「闘う場所と」『王様』は首を傾げながら答える。「それと、時間。いつ闘うか」
「それではないですか? 額に傷のある男は、別に逃げたわけじゃなかったんですよ。空き地に向かわせるときに、『二〇分待て。その後に自分も空き地に向かう』と、耳元で呟いた。そうすれば、云われた方としては、相手が来るまで待つことも不思議ではないのでは?」
「でも、相手は、引きずられていたのではないですか? 無理に喧嘩を売られた方だったのだから、そんな言葉に従う理由はないと思います」
「引きずられていた――それは、見たときの印象がそうだっただけではないですか? 理由はありますよ。一つは、髭の男の方が大きかったわけです。もし、意にそぐわないなら、小道に入る前に、もう少し反撃があるでしょう。少なくても、引きずられるのに抵抗するはずです。抵抗はなかったですね?」
と、『ゲーマー』の方を優しげに見る。『ゲーマー』は肯く。
「それにもう一つ。あなたは、力強く空き地の方に降ったと云いました。でも、そう簡単に大きな男が、振られることがあるでしょうか? 今までと違う力のかけ方で油断したと云うけれど、人間は重いものです。それを小道の距離を振るなんて難しいでしょう。なら、髭の男は自分の意志で空き地に向かったわけですよ。額に傷のある男の言葉を聞いて。空き地での音は」
ボキッと骨が折れるような音がどこからか聞こえた。
音の元は、神父様の大きな手だった。続けて大きな首を傾げると、そこからも大きな音がした。
「闘う前に柔軟体操でもしたんでしょうね? 私のように関節がボキボキとなるタイプだったんだろうでしょうね」
「結局、額に傷のある男は、来なかったわけですよね。逃げた。どうしてでしょうか?」
「さすがに、その人に聞かないと分からないですね。人には色々事情があるものですから」
「なるほど、謎はすべて解けた!」
『王様』の目は輝く。解いた人は『王様』ではないと思うのだが……。
「さて、これでお話は終わりです」神父様はニッと笑い、白い歯を見せる。「もうお帰りなさい。寄り道はしないように」
こうして、談話室を騒がした事件(?)は、神父様の叡智によって解決された。
叡智……あるいは方便。簡単に云えば、嘘で。
「そうなると、空き地には倒れていた跡があっても良いのではないですか?」
『聖女様』の突っ込みは激しい。
「それに、聞こえてきた音はなんだったのでしょうか?」
「一人でイメージトレーニングをしていた……次には『額に傷のある男』を倒すための」
だんだん話に無理が出てきた。
「別にいいじゃないの!」『王様』は激高して腕を大きく振り上げる。「それ重要? もっと大切なことがあるでしょう! 私たちには!」
けんか腰に、『聖女様』に近づく。すると、大きくあげた腕を下ろそうとしたところ、それは『聖女様』向かってしまっていた。
私は、危ないと思い飛び出そうとする。しかし、一瞬のことなので、動きが遅れる。『王様』の手を止めることは無理だ。
次の瞬間、大きな音が聞こえた。何かにあたる大きな音。
「今、重要なのは、落ち着いて帰宅することかな」
神父様は、『王様』に優しい声で語りかけた。その手は、『王様』の手を掴んでいた。いつの間に……。神父様は、離れた所で座っていたと思ったのだけども。
「面白い話ですが、結局、その当人たちに聞かないと分からないことです。そうムキになって議論することでもないのではないですか?」
『王様』は、神父様の手から、自分の腕を抜く。少し反省したのか、声のトーンはやや低くなっていた。
「でも、なんか気になりますよ」
「なるほど……」神父様は『王様』の腕を握ってた手を、自身の顎に添えた。「では、こう考えてはどうでしょうか? あなたの云うことは半分だけ正解だった」
「どう云うことですか?」
「つまり、額に傷のある男は、逃げたわけではないと、云うことです」
神父様は、ゆっくりと語る。
「なぜ、髭の男は二〇分、空き地から出てこなかったか。それは、空き地にいる必要があったんですよ。どんな? 決闘――というにはおおげさですかね。果たし合いだとしましょうか。この果たし合いに必要なものは何でしょうか? あなたが果たし状を書くとしたら、どんな情報を記します?」
「闘う場所と」『王様』は首を傾げながら答える。「それと、時間。いつ闘うか」
「それではないですか? 額に傷のある男は、別に逃げたわけじゃなかったんですよ。空き地に向かわせるときに、『二〇分待て。その後に自分も空き地に向かう』と、耳元で呟いた。そうすれば、云われた方としては、相手が来るまで待つことも不思議ではないのでは?」
「でも、相手は、引きずられていたのではないですか? 無理に喧嘩を売られた方だったのだから、そんな言葉に従う理由はないと思います」
「引きずられていた――それは、見たときの印象がそうだっただけではないですか? 理由はありますよ。一つは、髭の男の方が大きかったわけです。もし、意にそぐわないなら、小道に入る前に、もう少し反撃があるでしょう。少なくても、引きずられるのに抵抗するはずです。抵抗はなかったですね?」
と、『ゲーマー』の方を優しげに見る。『ゲーマー』は肯く。
「それにもう一つ。あなたは、力強く空き地の方に降ったと云いました。でも、そう簡単に大きな男が、振られることがあるでしょうか? 今までと違う力のかけ方で油断したと云うけれど、人間は重いものです。それを小道の距離を振るなんて難しいでしょう。なら、髭の男は自分の意志で空き地に向かったわけですよ。額に傷のある男の言葉を聞いて。空き地での音は」
ボキッと骨が折れるような音がどこからか聞こえた。
音の元は、神父様の大きな手だった。続けて大きな首を傾げると、そこからも大きな音がした。
「闘う前に柔軟体操でもしたんでしょうね? 私のように関節がボキボキとなるタイプだったんだろうでしょうね」
「結局、額に傷のある男は、来なかったわけですよね。逃げた。どうしてでしょうか?」
「さすがに、その人に聞かないと分からないですね。人には色々事情があるものですから」
「なるほど、謎はすべて解けた!」
『王様』の目は輝く。解いた人は『王様』ではないと思うのだが……。
「さて、これでお話は終わりです」神父様はニッと笑い、白い歯を見せる。「もうお帰りなさい。寄り道はしないように」
こうして、談話室を騒がした事件(?)は、神父様の叡智によって解決された。
叡智……あるいは方便。簡単に云えば、嘘で。