『ゲーマー』、二人の男が小道に入っていくのを見る。
文字数 1,646文字
私は、コーヒー店の窓際でゲームをしていたんだ。(以下、『ゲーマー』の話)
ゲームなら家でやれば良い? ……そうもいかない。家では、親がうるさいし……ゲームをするときは、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてないとダメなんだ。一人で静かに豊かで……。だから、客のあまりいない、そのコーヒー店は最高の場所なんだ。
と云っても、その日はあまりゲームの進みが良くなかったよ。気分を変えようと一端ゲームを止めて、窓の外を見たんだ。別に良い景色のお店じゃないよ。
オフィス街近くのお店だから、回りに見えるのはビルばかりだ。まだ行き交う車は結構あった。けれど、歩道を歩く人は少なかった。いや、私が見たときには誰も歩いてなかった。――彼らが現れるまで。
彼ら――と云ったのは、二人組だったからだ。
店の前の道路を挟んで向こう側を歩いてきた。歩道は狭かったせいか、肩を寄せ合うようだった。え? 男二人程度でぎりぎりの歩道なんて小さすぎないか? そうだね。歩道自体はそこまで小さくなかったと思う。二人とも大きな男の人だったんだ。
背が高いだけじゃないよ。幅があるって云うか、二人ともがっちりとしている体格だった。神父様と同じくらい――さすがにもう少し小さかったかも――そのくらいの大きさの男が二人歩いていたんだ。道に対して男たちが大きすぎた。二人の顔は暗くてよく見えなかった。けれど、一人の顔には傷があることが分かったよ。顔というか、額かな。大きな傷だったので目立っていた。
もう一人の男の顔の口元には髭があるのが分かったよ。顎にも頬にも黒々とした髭が伸びていた。そして、髭の男の方が、傷の男よりも一回り大きかったんだ。もちろん、普通の人に比べたらどちらも巨人みたいなものだけれども……。
結局は大きなだけの男が二人いるだけだ。興味が涌くようなことでもない。だから、ゲームを再びしようと視線を端末に向けようとしたんだ。そのときだ。
ちょうど、私の席からまっすぐに伸びた先。そこで、男たちは止まった。そして、大きな音がした。いや、それは、私が音がしたと勝手に思っただけかもしれない。実際には音は聞こえなかったかもしれない。向こうから離れていたし、間に窓だってある。それでも、聞こえないはずの音を感じるほどのことが目の前で起こったんだ。
額に傷をつけた男が、髭の男を殴ったんだ。すごい力強い振りだったよ。その拳は相手の頬にあたった。そして、膝を崩した。地面に倒れそうなるのを必死に堪えているようだった。傷の男は容赦なく、先ほどと同じ手で殴ってくる。殴られた男はこれ以上は堪らないと思ったのかな。相手の手を取って止めようとした。けれど、止まることはなかった。何度も殴られる。血だって流れているように見えた。
喧嘩が始まった? しかも、あんな大きな二人が。流血。
こんなときには警察を呼べば良いのだろうか? それとも、まずは店員に話してみる?
そんなことを思っていると、殴られていた男の方はグロッキーになっているように見えた。
そのとき、目が合ったと思う。傷の男の目と窓越しに。その目はなんといったらよいかな? 冷徹と云うか、感情がないと云うか。そんな目つきだった。私は、目をそらしてしまった。怖そうだったし。
ただ、あの二人がどうなったか気にはなってしまう。視線を少しばかり外した後、ちらりと向こう側を見たんだ。
ところが見ていない間に、歩道から二人は消えていた。別に煙のように消えたわけじゃないよ。あのあたりはオフィス街。ビルがたくさん建ち並んでいる。ビルの間に隙間がほとんどないほどに。でも、たまたま、男たちが殴り合っていた横のビル間には隙間――小道があったんだ。傷の男は、髭の男を引きずるように――相手は引きずられることに抵抗しているように見えた――小道に消えていったんだ。
狭い小道に向かう大きな背中のことははっきりと覚えている。
ゲームなら家でやれば良い? ……そうもいかない。家では、親がうるさいし……ゲームをするときは、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてないとダメなんだ。一人で静かに豊かで……。だから、客のあまりいない、そのコーヒー店は最高の場所なんだ。
と云っても、その日はあまりゲームの進みが良くなかったよ。気分を変えようと一端ゲームを止めて、窓の外を見たんだ。別に良い景色のお店じゃないよ。
オフィス街近くのお店だから、回りに見えるのはビルばかりだ。まだ行き交う車は結構あった。けれど、歩道を歩く人は少なかった。いや、私が見たときには誰も歩いてなかった。――彼らが現れるまで。
彼ら――と云ったのは、二人組だったからだ。
店の前の道路を挟んで向こう側を歩いてきた。歩道は狭かったせいか、肩を寄せ合うようだった。え? 男二人程度でぎりぎりの歩道なんて小さすぎないか? そうだね。歩道自体はそこまで小さくなかったと思う。二人とも大きな男の人だったんだ。
背が高いだけじゃないよ。幅があるって云うか、二人ともがっちりとしている体格だった。神父様と同じくらい――さすがにもう少し小さかったかも――そのくらいの大きさの男が二人歩いていたんだ。道に対して男たちが大きすぎた。二人の顔は暗くてよく見えなかった。けれど、一人の顔には傷があることが分かったよ。顔というか、額かな。大きな傷だったので目立っていた。
もう一人の男の顔の口元には髭があるのが分かったよ。顎にも頬にも黒々とした髭が伸びていた。そして、髭の男の方が、傷の男よりも一回り大きかったんだ。もちろん、普通の人に比べたらどちらも巨人みたいなものだけれども……。
結局は大きなだけの男が二人いるだけだ。興味が涌くようなことでもない。だから、ゲームを再びしようと視線を端末に向けようとしたんだ。そのときだ。
ちょうど、私の席からまっすぐに伸びた先。そこで、男たちは止まった。そして、大きな音がした。いや、それは、私が音がしたと勝手に思っただけかもしれない。実際には音は聞こえなかったかもしれない。向こうから離れていたし、間に窓だってある。それでも、聞こえないはずの音を感じるほどのことが目の前で起こったんだ。
額に傷をつけた男が、髭の男を殴ったんだ。すごい力強い振りだったよ。その拳は相手の頬にあたった。そして、膝を崩した。地面に倒れそうなるのを必死に堪えているようだった。傷の男は容赦なく、先ほどと同じ手で殴ってくる。殴られた男はこれ以上は堪らないと思ったのかな。相手の手を取って止めようとした。けれど、止まることはなかった。何度も殴られる。血だって流れているように見えた。
喧嘩が始まった? しかも、あんな大きな二人が。流血。
こんなときには警察を呼べば良いのだろうか? それとも、まずは店員に話してみる?
そんなことを思っていると、殴られていた男の方はグロッキーになっているように見えた。
そのとき、目が合ったと思う。傷の男の目と窓越しに。その目はなんといったらよいかな? 冷徹と云うか、感情がないと云うか。そんな目つきだった。私は、目をそらしてしまった。怖そうだったし。
ただ、あの二人がどうなったか気にはなってしまう。視線を少しばかり外した後、ちらりと向こう側を見たんだ。
ところが見ていない間に、歩道から二人は消えていた。別に煙のように消えたわけじゃないよ。あのあたりはオフィス街。ビルがたくさん建ち並んでいる。ビルの間に隙間がほとんどないほどに。でも、たまたま、男たちが殴り合っていた横のビル間には隙間――小道があったんだ。傷の男は、髭の男を引きずるように――相手は引きずられることに抵抗しているように見えた――小道に消えていったんだ。
狭い小道に向かう大きな背中のことははっきりと覚えている。