好きなだけ甘えて・・・

文字数 714文字



心の無い種族の誕生は、


人間にとってある種の進化の1つかもしれない。 

 


内臓としての心臓が無いわけではない、人間的な感情が無いのだ。

心の無い種族には、良識も優しさも悲しみも、


死に対する恐怖も無かった。


自らの死すら軽んじていた。


心の無い種族は、徐々に社会に増殖蔓延し始めた。


「地下鉄で心の無い種族と目が合ってしまいました。


心底ぞっとしました。」


シュガーコート64は、シュガーコート55に言った。


シュガーコート55は

「心の無い種族とか言うべきではありません。差別用語ですよ。」

と言ってシュガーコート64を諌めた。


シュガーコート55の腕に抱かれた人間の赤ん坊は、


そんな会話に目覚めることもなく、


すやすやと安心しきって眠り込んでいた。

 

シュガーコート型アンドロイドは、人間工学に基づいて、


人間がもっとも安心する表情と身のこなしで、


人々に優しく話しかける事が出来る、最新型のアンドロイドだ。



人々はシュガーコート型アンドロイドに優しさ、


そして愛情すら求めるようになっていた。

 

心の無い種族が社会に増殖し続ける中、


良識ある人々が自らの心を守るために、取った手段は、


シュガーコート型アンドロイドを買い求め、


その人工的に作られた優しさや愛情で、


自らの心をガードすることだけだった。



「愛してる?」


と人が聞くとシュガーコートは、プログラムに従って優しく


「誰よりも、あなたを愛しています。」


と答えた。


そして、人は本物の愛とプログラムに従った愛との区別が、


つかなくなっていった。



「プログラムされた愛・・・それは偽物なんかじゃない。


私はあなたを本気で愛している」


シュガーコート55は、人間の赤ん坊をあやしながら呟いた。


少なくとも彼は、そう信じている。




おしまい
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