大名の画廊にて

文字数 580文字



まだ無名の若い画家は、中学時代に、


自分の恋人をモデルに絵を描きました。



その絵があまりにも美しく描けたので、


若い画家はその絵の中の恋人に心を奪われ、


実在する恋人から少しずつ心が離れていきました。


それに怒った恋人は、


画家の隙をついてその絵を、


画廊に売り飛ばしてしまいました。


その絵は無名な画家の絵にしては、


高値ですぐに売れてしまい、


画家が気づいた時には、


すでに手の届かない所へ行ってしまいました。



画家は何度も同じ絵を描こうとしましたが、


二度と描くことは出来ませんでした。


10年後、画家の恋人はある画廊で、その絵を発見しました。

画家の恋人はその絵を見て驚きました。


絵は、保存状況が悪かったのか、色あせ古ぼけていて、


その古ぼけた絵の中で、


少女が孤独と焦土感に苛(さいな)まれた表情で、


画家の恋人を見つめていました。


「こんな絵じゃなかったのに・・・」


画家の恋人は、少女の頃の自分が描かれた


その絵を買い取り、自分の部屋に飾りました。


その日から、画家の恋人は、


その絵を見ては話しかけたり、


笑ったり怒ったり、


時には泣き喚いたりするようになりました。


ある日、画家が彼女の部屋を訪れると、彼女は


「こんなつもりじゃなかったのに・・・」


と呟いた後、部屋を出て行きました。


そして、画家の元へは2度と戻っては来ませんでした。


「失意」


そんな声が絵から聞こえてきたような気がしました。




おしまい
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