一線を超えて 後編

文字数 940文字

私は死んだのだろうか?
死の定義って何だろう?

数万のミクロの砂に解かれてしまった私は、
自身を「死んだ」と定義していいのだろうか?

「誰かが、葬式でも挙げてくれたら、
死んだと認めてもいいのに」と私は思った。

いや違う、私じゃない、
正確には数億のミクロの砂に解かれてしまった、私達だ。

「これは死ではない。
ただ特殊な状況に陥っただけだ。
特殊な状態・・・要するに一線を超えた状態。」

とその人の声が聞こえた。
特殊な状態に陥った私達砂は、
時間の経過と共に、大地と一体となった。

大地と一体となった私達砂に、
風が吹き、冷たい雨が降り注いだ。
私達砂は冷たい雨と共に、
地層の底に徐々に落ちていった。

花崗岩の隙間を通るたびに、
私達砂は少しずつ濾過されていった。

地層の年代を1つ通り過ぎるたびに、
私達砂の邪念は私達から引き剥がされ、
邪念は地層のその年代に取り残された。

地層の最下層に辿り着いた時には、邪念やその他一切を取り除かれ、
研ぎ澄まされ、私達砂自身のみだけの存在になっていた。

私達砂の心には、心細さだけが残った。
地層の最下層には光も影も音も何も無かった。

「このまま私は終わるのか?」と私が思った時、
地底が熱を帯び動き出した。

地底から灼熱に燃えるマグマが噴出し、
私達砂を一気に地層を突き破り、空高くまで吹き上げた。

空を舞う私達砂は眼下に青い海が見た。
そして、そのまま海に落下した私達砂は、
南の島の海岸に打ち揚げらた。


「そして、砂達は、その島の若い芸術家に拾われ、
粘土と混ぜられて今の私が創られたの」
と少女は言った。

少女の前にいる少年は、ただ呆然と少女を見つめた。

今しがた少年は10万年分の勇気を振り絞って、
少女に愛の告白をしたばかりだ。

少年は少女が話した言葉の意味を、必死で探った。

少女は
「こんな私でもいいの?」
と少年に聞いた。

少年はすぐに頷いた。

少女は、一線を超えた時に出会ったその人が
「新生の始まりを祝福する。」
と耳元で囁いた気がした。

少し冷静さを取り戻した少年は、
島に伝わる『砂の少女』の話を思い出した。

異界からの訪問者
「まさか本当の話?」と少年は思ったが、
目の前の少女の笑顔を見ると、どうでも良くなった。

そして、愛の証として、
昨日見つけた少年だけが知る秘密基地に、
少女を案内することにした。


おしまい
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