「我々には時間が無い・・・。」
文字数 563文字
まだ、辺りが薄暗い夜明け前、
冬場の河原に未確認飛行物体が着陸した。
その未確認飛行物体は、神々しい輝きを、周囲に放っていた。
河原には10人前後の、同じ衣装を身にまとった男たちが、
頭をたれて、光り輝く未確認飛行物体に、祈りをささげていた。
その祈り・・・それは哀願もしくは嘆願に近い祈りだった。
リーダーと思われる男が
「我々には時間が無い・・・。」
と祈りながら呟いた。
「我々には時間が無い・・・。」
この思いは、そこにいる男たち全員が、共通した思いだった。
「早くどけ。俺たちが予約していた場所だぞ。」
リーダーは思わず言った。
すると、光輝く未確認飛行物体はゆっくりと離陸し、
まだ朝が来る前の夜空に浮上し、強く光を放ったと思うと、ふっと消えた。
「まさか、言葉が通じた?」
リーダーはぽつりと言った。
他の男たちは一瞬だけ空を見上げると、素早くそれぞれの配置についた。
揃いのユニホームを着た男たちの手にはグローブやバット。
早く試合を終わらせてしまわないと、少年野球チームの朝練が始まってしまう。
河原にある野球グランドの使用時間の終了時刻は、刻々と迫ってきている。
「我々には時間が無い・・・。」
バッターボックスに立った男は
「UFO研究家や噂好きのマスコミなら、もっと騒いだに違いない。」と思いながら、
朝を迎えた日曜日の空を一瞬だけ見上げた。
おしまい