乙姫の恋、もしくは故意。

文字数 451文字



「私より母親を選ぶと言うのであれば、

地上にでもどこにでも帰ればいい」

と玉手箱の蓋を閉めながら、乙姫は言った。


傍に控えていた亀の亀田が

「乙姫様、本当によろしいのですか?」

と聞いた。


乙姫は竜宮城の窓から海上を見上げた。


太陽の光が波に揺られ、きらきらと輝きながら、


海底の竜宮城にも届いていた。



「わざわざ地上に出向いて貰い、お前にも苦労をかけた。」


「乙姫様の現在の心境に比べれば、


人間の子供にいじめられた程度の怪我など、


怪我の内には入りません」



「私の心境か・・・。」

乙姫はそう呟くと玉手箱を紐で強く縛った。


そして

「ずっと愛していたのに・・・浦島太郎。


しかし、私以外の女に渡すぐらいなら、いっそ・・・。」

と言って太陽の光り輝く海上を、じっと見つめていた。


「世界を破壊するかも知れない、


竜王になる事を恐れたのでしょうか?」



「浦島太郎は、悪に満ちた世界を憎み、


その破壊を望んでいた。


にも関わらず、最後になって怖気づいた?」


「はい」


「まあいい。


竜王が破壊する末法の世はまだ先、


次期竜王選びは、ゆるりと吟味しよう」




おわり
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