メタ・ホワイダニット――阿部和重『クエーサーと13番目の柱』
文字数 884文字
夕暮れ時の善光寺高校文芸部、部室。江守浩介と高崎玲奈、桜峰咲羅の3人がいる。
高崎先輩、『クエーサーと13番目の柱』、読みましたよ。
どうだった? 私としてはエンタメ小説と純文学の中間を走る作品だなっていう印象だったけど。
うーん、ぼくは純文学の定義がよくわからないのでその辺は曖昧なんですけど……とにかくスピード感があって刺激的でした。アイドルを追いかけるパパラッチ同士の争いっていうのも、ぼくの知らない世界だったので楽しかったです。
あら、桜峰さんも読んでたの。人によってはそう感じるかもね。
でも、この作品は個人的に好きなんです。私はメタ・ホワイダニットだと思っていて。
ホワイダニットというのはミステリの用語でして、主に「なぜやったのか?」というような動機の解明を主眼とした分類の一つなんです。
そのくらいは私も知ってるけど、この作品はメタでホワイダニットなの?
私はそう感じました。わりかし特殊な文体を使っていますよね。視点人物に対してややカメラが遠いというか……。
はい江守くん黙って。――その文体がホワイダニットにつながるのね?
終盤に書かれている、とある一文に衝撃を受けたんです。つまり、「作者はなぜこの文体で書こうと思ったのか?」という疑問が、その文章によって氷解する。この驚きはミステリのそれですよ!
ああ、それでメタ・ホワイダニットなのね。枠外の驚きかあ……。
いいじゃない。その作品から何を感じ取るかは読者の自由だし。桜峰さんはミステリとして『クエーサーと13番目の柱』を評価したいわけね。
はい。純粋にスピード感のある物語としても面白いと思います。
阿部さんは伊坂幸太郎さんとの共作で『キャプテンサンダーボルト』という長編も出しているわね。『クエーサー』の方が先だけど、両方を比べてみるのも面白いかも。スピード感はどちらにも通じるものだし。
小説の読み方にも色々あるんだなあ……。ぼくももう少し深読みできる人間になりたいな。
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