設定と動機の結束――今慈ムジナ『ふあゆ』
文字数 1,061文字
昼休みの善光寺高校。文芸部の部室には江守浩介と桜峰咲羅がいる。
桜峰さんってミステリファンなんだよね。じゃあライトノベルでもトリックやどんでん返しを盛り込んだ作品なら好きになれる感じ?
もちろん! 私もレーベルのサイトを見て、それらしい作品はチェックしています。
うーん……パッと思いついたのはガガガ文庫の『ふあゆ』ですね。今慈ムジナさんが小学館ライトノベル大賞を射止めた作品で、デビュー作です。
現代的な怪異譚ですけど、私は特殊設定ミステリとして読みました。それらしい技巧が凝らされているとすぐミステリ認定しちゃうタイプの人間なので……。
主人公は心因性相貌誤認症っていう病気を抱えているんだよね。人の顔が正しく認識できないっていう。
おじいさんは犬の頭で、後輩は貝みたいな頭をしている――ように見える。
この主人公が殺人事件に遭遇するんだよね。犯人はハシビロコウの頭をしていた。で、主人公の周りではさらに惨劇が続く。
登場人物の扱いはかなり思い切っていますね。あの人やこの人が次々殺されていく。これに主人公は追い詰められていくわけですけど、終盤、犯人がなぜ彼の周りの人物ばかり殺すのかということに答えるんです。その動機がかなり異形のもので。
私、常識外れな動機を提示されるとすぐ好きになっちゃうんです。『ふあゆ』の場合は真相に説得力と衝撃がきっちり同居しています。主人公の心因性相貌誤認症という設定があってこその動機。この特殊設定でなければ成立せず、これしかないと納得できるものなんです。受け入れられるかはともかく、設定が真相と不可分になっているところはポイント高いです!
なるほどー。主人公の一人称だけど、この語りはちょっとイラッとしない?
狙ってやっているように感じましたよ? ストーリーだけ取り出してみるとかなり陰惨じゃないですか。これで主人公が真面目すぎると、たぶんライトノベルと呼ぶには厳しくなるような……。
言われてみれば……。すると主人公のいい加減な性格が、ストーリーの暗さをあるレベルまで中和してくれていたんだ。
作品の個性にもつながっていますからね。結果的に、ライトノベルという基盤に立ちつつ複数ジャンルを横断した形になっていて面白い一冊だと思います。
これ、ガガガ文庫の新人賞受賞作なんだよね。こういう作品がたまに飛び出してくるから油断できないレーベルだなあ。
この路線の作品は、時々でいいので継続的に出していってもらいたいですね。
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