常識は汚物と詩に埋もれる――木下古栗『グローバライズ』
文字数 1,376文字
薄曇りの放課後。善光寺高校文芸部の部室には高崎玲奈と京泊孝彦がいた。
最後に収録されてる表題作だな。やっぱりほとんどは意味不明だよ。深い意味があるのかもしれないが俺には読み取れなかった。でもさ、寿司屋から始まって流血ドバーの流れからあんな壮大な話になるなんて普通思わないだろ。描写も謎の美しさがあるし……感動していいんだよな?
それから「反戦の日」。嵐山がデモ活動やってる学生からマイク奪って怒鳴るところな。もうほとんどヤケクソで言葉並べてるようにしか見えないんだよ。でも真面目に文字を追いかけてるとじわじわ笑いがこみ上げてくる……。
いや、これはな、本気で反応に困る一冊だったんだよ。途中まで普通の小説だなって読んでたら急に文章が暴走していきなり終わったりしてさ。一回読んだだけじゃ何が起きたのかよくわからない話もある。けど戻ってもう一度読み返そうという気にもなれない。そういう意味で「専門性」って作品が一番形が整ってるんだが、これが一番汚い……。
汚い話も多いけど、綺麗な描写もあちこちにあるの。気づくと物語の本筋はあまり重要に思えなくなって、見たことのない表現に浸りたくなる。文章を読むというよりは言葉を追いかけると言った方が適切かもしれないわね。小説を読むというより、詩を読む時の感覚に近いのかも。
読んだ直後は「もう読み返したくない!」とか思ったりするけど、時間が経っても忘れられなくて、ふとまた手に取りたくなったりする作品ってあるだろ。これはそのタイプの短編集だよ。強烈な作品が多すぎる。これを素面で書いたのかってところまで考えるとやばさ倍増だな。