意識的、それとも天然?――赤江瀑『海贄考』
文字数 1,362文字
テストが終わったお昼時。善光寺高校文芸部の部室には狛村日和と桜峰咲羅がいる。
というのは、動機がほのめかされるだけで、それをメインに置いた書き方がされていないからでして。胃を病んでいる男に女性が毒を盛った理由――その真相は読み手の常識を覆すようなもので、反転が鮮やかなんです。でも、解明を主眼にはしていない。
基本的には幻想小説方面から評価されている気がします。幻想文学アンソロジーにもよく作品が採られていますし。ミステリ方面だと評論家の千街晶之さんが『幻視者のリアル』という評論集で赤江瀑について細かく言及しています。かくいう私も、この「運命の車輪が逆転する一瞬」と題された評論で赤江さんを知りました。
赤江作品のミステリ性を指摘する――という形でしたね。今回の「月下殺生」への言及はなかったような。ともかくですね、この作品はどんでん返しが物語にあまりにも自然に溶け込みすぎているんです。大胆な発想を持たせつつも、流れの一部にしかしていない。ここが反応に困るところなんですよ。
自然発生的なミステリですね。そうそう、表題作の「海贄考」にしても、ミステリのある系列に属する作品と言えそうなんです。ただそれをホラーとしての演出に利用しているので、狙って書いたのか、書いているうちにそうなったのか、これまた判断に迷うところでして。