現実と幻想の円環――恒川光太郎『竜が最後に帰る場所』
文字数 906文字
授業の終わった善光寺高校文芸部の部室。今日は江守浩介と狛村日和がいる。
すごくよかったです! 五編全部好きですけど、最後の「ゴロンド」は特に素晴らしかったですね!
一匹の竜の成長を描く話だね。竜を卵から孵った瞬間から追いかけて書いていくファンタジーって、わたしは今のところこれしか知らないんだ。
他にもありそうですけど、こういう書き方の作品はなさそうな気がしますよ。水の中の描写なんてほぼ両生類の世界じゃないですか。食べられる恐怖におびえていた生き物がだんだん大きくなって食べる側に回る。でもいつまでも水の中にはいられなくて、土の上にはもっとでかい奴が――って。
すごく大きな円環を描いて一話目の頭に戻っていくんじゃないかって、少し想像しました。
三話目の「夜行の冬」は恒川さんお得意の幻想世界って感じだね。四話目の「鸚鵡幻想曲」は展開が読めなくて楽しい。
冒頭からラストまでの飛躍って意味では一番飛んだんじゃないですか? ノリ重視で書いたのかなって思ったら、解説にもそれっぽいインタビューの発言が引用されてますし。
遡るけど、一話の「風を放つ」と二話の「迷走のオルネラ」では超自然現象は起きていないんだよね。二話は作中で語られるお話の中こそは幻想的だけど。
短編の配列がいいですね。リアルな現実から始まって、最後はファンタジーで終わるっていう。徐々に幻想度が強まるようになってますけど、雑誌にそれぞれの短編を発表した段階でここまで考えられてたんですかね。
どうだろうねえ。真っ先に発表された「風を放つ」なんて恒川さんが『夜市』でデビューした頃の作品でしょ。しかも初出が純文学系雑誌の『群像』。他の四つも不定期に刊行されてた雑誌に載ったものだから……バラバラの短編群を集めて統一感を出すにはこの並びしかないっていう結論になったのかなあ。
でも、不思議と一本の線でつながってる感じがするんですよね。これしかありえないっていう作品が理想的な順番で並んでいるように思えて。
恒川作品の自由奔放さがうまく作用した結果かな。またこういう短編集を作ってほしいね。
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