地獄玄関:寮の探索2000字

文字数 2,105文字

 高校の寮に住んでるんだけど、僕の部屋の玄関は表裏が逆さに付いているんだ。鍵穴が部屋の内側にある。つまり部屋の内側から鍵をかけても外側のつまみを回せば玄関が開く。使えない鍵は随分昔に誰かが無くして行方不明。
 だから代わりにチェーンロック2つと廊下側に外付けのストッパー式の鍵がある。外から掛ける鍵がないと入り放題だし、中から掛けるチェーンがないと入られ放題。
 管理人さんに直して欲しいと言ったけど、昔からこうだという何の解決にもならない返答があっただけ。

「鈴やん、夏休みは帰省すんの?」
「どかな。八木島は?」
「俺は帰る。残っても暇だろ? だからこれやる」

 差し出されたのは古ぼけた鍵。八木島は同じ寮生。

「何これ?」
「地獄玄関の鍵。知らない?」

 そういえば聞いたことがある。寮の七不思議ってやつ。ええと、風呂で踊る金髪碧眼、調理室で麻婆豆腐に砂糖を入れる謎コック、寮のどこかにある地獄へ続く封印された玄関。他の4話は忘れた。寮が地獄と繋がってるとか意味不明。

「七不思議の?」
「そうそう、先輩から門外不出って言われてもらった」

 ずいぶん軽い門外不出だなぁと思って受け取ったけど、八木島も扉の位置までは先輩に聞いていないらしい。まぁ、からかってるんだろ、先輩は八木島を、八木島は僕を。

 結局のとこ、バイトもあるから帰省しないことにした。結論、八木島の予言通り暇だった。暇。どっか行くにも外は暑すぎるし遊ぶ友達も帰省中。
 高校は山の中腹に会ってさ、町に出るには高校の入り口から始まる長い坂を降りて、帰りは登ってこないといけない。理由なくフラっと出かけるにはちょっとハードモード。
 だからバイトの時に必要なものを町で全部買って、バイトがない日は部屋で転がってゲーム三昧を満喫していた。でもそのうちゲームも飽きて手持ち無沙汰になって、誰か来ないかなぁと食堂でぼんやりしてると同じことを考えた中原がやってきた。

「鈴やん、面白いことねー?」
「ない。まじ暇。どっか行く?」
「暑いじゃん? 外」

 中原も残留組だけど、結局の所、暇なんだ。とはいえエアコンが効く寮から外に出るほど行きたいところは無い。一応どっか行こうかと寮の入り口まで行ったりもするんだけど、一歩先の外の強烈な日差しに景色は白く眩しくて、もやもや陽炎みたいなのが乾いたコンクリの上にたってるのを見ちゃうともう外出気分は木っ端微塵。だから部屋でゲームしてるわけで。

「寮でできること? ゲーム?」
「それも飽きた。何かねぇ?」
「うーん、何か。あ」
「うん?」
「地獄玄関の鍵を八木島から貰った」
「七不思議の?」
「そう、探す?」
「まあ、じゃあそれで」

 最初は中原も他にないしなって顔をしていたけど、普段行かない非常階段とかウロウロすると何だか妙に楽しくなってきた。寮の入り口近くの守衛室の側に寮の地図がある。学生の部屋以外にも倉庫や電気室とか、行ったこともないような場所が結構あった。

 開かない鍵があるたびに古鍵を突っ込むけどやっぱり開かない。まあ開かないよね。
 1時間くらいうろついて、結局飽きて食堂でゲームすることにした。協力してゾンビを狩る。夏とゾンビは似合う気がする。
 しばらくするといつの間にか暇人が集まってきて、ゾンビを狩るメンツが増えた。

「ゾンビと言えばさぁ、地獄玄関」
「地獄ってゾンビいるの?」
「さっき鈴やんと探検したけど見つかんなくてさ」
「あるわけないじゃん」
「そうそ、開けたら地獄の業火なんでしょ」
「業火ってことは熱いのかな、うへぇ」
「あれじゃね? 調理室のオーブンの扉だよきっと」
「BBQにはいんじゃね」
「ゾンビ肉? 腹壊しそ」

 ボスが出てきて一瞬静かになり、倒してアイテムを分配しつつ雑談が再開される。

「なんで寮が地獄と繋がってんだよ」
「寮つかこの山が繋がってるんだって」
「何で?」
「さあ?」
「籠屋山のほうが地獄につながってそうだよね」

 高校のある山の隣には隣県にまたがる高い山があって、結構いろんな逸話もあるらしい。

「あー確かに」
「なんか昔エライ坊さんがここに封印したみたいだよ」
「迷惑な」
「でも地獄の業火があるからこの辺温泉が沸くんだって」
「便利だな、地獄」
「そんで火の具合を見るためにここに玄関があるんだって」
「やっぱオーブンなの?」

 どうでもいい話をしてるとだんだん暗くなってきて、今日も1日無駄に過ごした感。
 食堂でそのまま晩ごはんとってみんなと別れて、カチャリとストッパーの鍵を外して自分の部屋の中に入る。半日ぶりの部屋は熱がこもってむんわりと蒸し暑かった。地獄の業火のせいだよ。そう思ってかけようと思ったチェーンロックと手元の古鍵を見比べる。そういやここにも鍵穴があると思ってなんとなく挿した。何故かカチャリと回った。

 えっ?

 鍵穴のあるノブが急に熱くなった気がする。思わず扉に耳を当てるとゴォォという火が燃えるような音が聞こえた。外、廊下じゃないの?
 本当に、地獄に繋がった? ここが七不思議の現場なの?
 心なしかあてている耳の先から誰かが歩いてくるドスドスした音が聞こえる。僕は思わず施錠して鍵を抜くと、音は聞こえなくなった。
 まじで?
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