蛇口:奇妙な500字

文字数 617文字

 じゃらじゃらと水が流れる音で目が覚めた。
 蛇口でも閉め忘れたかなと思って体を起こす。寝起きで頭は少しぼんやりしている。なんかだるいけど、閉じなくっちゃ。そう思ってなんとか体を起こしてシンクに行くと、水は出てなくて小さな蛇がいた。
 その蛇がじゃらじゃら言っていた。体長は10センチほどの見知らぬ蛇。

「どっから来たの」

 なんとなく、そう聞いても蛇はじゃらじゃらと言うばかりで、こちらをじっと見つめている。
 蛇をどこかに移さないと、でも手を出したら噛まれるかな。そんなことを思って手を伸ばしたり引っ込めたりしていると。

「もう少ししたら出て行きますよ」

と蛇から声がした。

「どうやって出ていくの?」
「私はこの蛇口から来ましたから、この排水溝に流れます」

 排水溝に? 詰まってしまわないかな。
 不安に思っていると

「細いから大丈夫ですよ」

と言われた。確かに蛇の胴回りは5ミリほど。これなら大丈夫なのかな。

「ところてなんで蛇口からでてきたの?」
「蛇口には蛇がいるものですよ」
「そうなの?」
「そうじゃないと水の音がしないじゃないですか」
「そうなの?」
「そうですよ」

 試しに蛇口を捻って水を出してみても、何の音もしなかった。しばらくすると、蛇はじゃらじゃら言い始めた。ああ、水の音って、蛇が出してたんだ。

「それではそろそろ失礼します」
「あ、うん、さようなら」

 蛇はぺこりと頭を下げて、水と一緒に排水溝に流れていった。流れる水からは音がしなくなっていた。
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