ゆうれいのあし:ぷちん2000字

文字数 1,888文字


 私は死んでしまったのだ。
 おお、何ということでしょう?
 自分の腕が半透明になっている。
 まるでトコロテンとか水ようかんとか、そんな感じに見える。
 不思議なことに、右手で左手が触れなかった。いや、一瞬触るような抵抗はあるのだけどつるっとすり抜ける。
 鼻のあたまが痒くなった時はどうしたらいいんだろう?
 少し不安になった。

 それでなんで死んだのだったか。
 足元に自分の死体がある。
 頭から血を流している。
 痛そう。
 そう思って倒れている自分の頭を触ろうとしたけど触れなかった。
 まあいいか。痛くないし。

 ええと、それでなんでこんなことになっているのだっけ。
 見回してみるとなんだか薄暗かった。
 ううん。

 ああ!
 思い出したぞ。
 洞窟があるというので探検に来ていたんだった。
 それでええと、わぁわぁ騒いでいるとゴロゴロリという音がして洞窟が崩れてきたのだった。
 やはり洞窟で大きな音を出しては駄目だったのかな。
 あれ、それは雪崩が起きるからだっけ。
 自分の知識がはっきりしない。
 脳みそも半透明なトコロテンになっているのかもしれない。

 そうそうそうだ。それで友達と一緒にきていたのだった。
 さらにキョロキョロ見回すと、友達が少し先の床に倒れていた。
 土や岩が降ってきたから咄嗟に突き飛ばしたのだった。
 どうやら友人のところには土砂は及んでいないようだ。
 よかったよかった。
 けれども友人はぴくりとも動かなかった。

 あれ、せっかく助けたと思ったのに。
 なんだかちょっと残念な気持ち。
 よく見ると頭から血が流れている。
 だ、だいじょうぶかな? 痛そう。
 ちょっと遠かったけど、自分の体をぎにゅんと伸ばして近づいてみる。
 意外とのびた。ゆうれいというものは伸縮性があるのだな。

 ううん、顔色が悪いような。
 心配。
 ひょっとして突き飛ばした時にどこか頭を打ったとか?
 自分の死体を振り返ると頭が潰れている。どきどきする。
 まぁ、あたまというか下半身が瓦礫に挟まってるから潰れてるのは頭だけじゃないのだろうけど。
 それでそのはずみでか、自分のポケットから転がり落ちたスマホが洞窟の床に落ちている。

 そうだ!
 救急車をよぼう!
 そう思ったのだけどスマホは拾えなかった。スマホは華麗にすり抜けた。
 あー。ゆうれいだったー。
 でもゆうれいって電気とかでできてたりしないの?
 なんとなくそんな話も聞いたような?
 けれども手はスマホをすりぬけて、いかんともしがたい。

 困った、困ったよう。
 ここに来ることは誰にも言ってないんだよう。
 だって言ったら怒られそうだから‼
 ううううう、うん?
 そういえば自分はゆうれいだった。
 それで自分にはゆうれいが見える友達がいるのだった。
 (とも)くんに会いにいって救急車を読んでもらおう。そうしよう。ゆうれいが見える友達。

 もう1回スマホを触ろうとしたけど触れない。
 うん、やっぱり。
 つまり自分はゆうれいだからすり抜けられるのだ。
 えへん。

 足がないとなんとなく正しいゆうれいになった気がする。
 汗を流した気分で汗を拭う動作をしてみると、目の前に友達の顔があって、ドキっとした。
 思わずのけぞると、一回転した。
 よく考えると今自分は浮いている。
 わぁ、やっぱりゆうれいなんだな。不思議。
 自由に友達に近づけるようになって、友達のまわりをくるくる飛んで見てみた。
 ふすーという音がする。
 よかった、大丈夫。息してた。

 じゃぁ、行ってくるからちょっとまっててね。
 そう言うと、なんとなく、この友達とはもう会えないような気がした。
 なんでだろ、なんとなく自分の賞味期限があるような気分。
 この洞窟のお外はカンカン照りで、アイスのように溶けてしまいそうだ。
 ゆうれいはアイスなのだろうか。そういえばドライアイスの煙ににているのかも?
 l’m carbon dioxide ?
 No! I scream.
 いや馬鹿なことを言ってる時間じゃなくてさ。
 溶けるからゆうれいは昼には出ないのだろうか。
 それから賞味期限を全部使ってしまうと消えてなくなってしまうような、熱いところでドライアイスを置いておくと煙のように溶けるような、そんな気分。

 うーうーうー。
 でもせっかく助けたんだしちゃんと助けないとって気はする。
 でもだから、ちゅってした。
 実はこの友達は好きな友達だったのである。
 最初で最後のちゅっはトコロテンのようにすり抜けてしまった。
 残念。まあいいか。
 仕方がない。

 さて、と。
 行きますか。
 智くんにちゃんと救急車呼んでもらうから、ちゃんと頑張って生きててね。

Fin.
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