第11話リアル

文字数 776文字

 八月も終わりに近付くと、どことなく日が短くなってきた。
 しかしまだ夕方五時を過ぎているが明るい。
 いつも彼がきているラーメン屋。
 器や小物が写真と同じで、たまに窓際の席から写っていた景色もまさにこれだ。
やっと見つけた。
 彼はたまに自撮り写真も撮っていたので、顔は把握している。
 後は彼が入店するであろう時間まで張り込みをすれば、彼に会える。完璧。
 やっとSNSで恋をした見知らぬ男性に会える、そう思っただけで胸が弾んだ。

「別に迎えに来なくてよかったのに~」
「この子がパパを迎えに行くって聞かないから」
「早くパパに見せたいものがあるの! 急いで帰ろ~!」
「えー、パパ、毎週金曜日の一杯楽しみにしてるんだから、ご飯食べさせてよー」
「ラーメン食べてから帰りましょ」
「はーい」

 親子連れとすれ違った。
 ツインテールの可愛い女の子とショートカットなスレンダーママにスーツ姿のパパ。
絵に描いたような理想なご家族だ。

--ちょっと待って、今のパパ

 私は目を見開いた。すれ違った瞬間に、振り返る。
 どこからどうみても、あの私の恋い焦がれていた彼である。カズヒコさんである。
 でも「パパ」と呼ばれていた。彼女がいるでなく、この人は妻子持ちだったのか。
 なのにこの男は複数の女性にSNS上で声をかけていた。
 きっと最近音沙汰がなくなったのは、奥さんにでもバレたから……?
 私は口の端が緩んだ。

「……バカみたい」

 パパの耳にそれが届いたのか、パパは私に目をやった。
 目があった。
 切れ長でやはり惚れてしまいそうになる。
 あぁ、今の私は一体どんな顔をしているのだろう。

「パパ~?」
「あ、うん。なんでもない、行こうか」

 手を繋いで家路を辿る一家。
 それを私は、どんどん暗くなっていく夕方の空のように眺めていた。
もう闇夜はすぐそこまで近づいていた。

--そこから先の私の記憶はない。
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