和解

文字数 896文字

 鳥達のさえずりで目が覚めた。まだ外は若干暗く、アラームより先の起床である。
 そうだ、スマホ……、と、忘れていた昨夜の事を思い出し、スマホを躊躇いながら手にする。
 SNSではなく、昨日の例の女の子からメッセージがあった。

【ごめん。昨日、SNSで私、カナの悪口書いた。でも、さっき消したから】

 悪口が書かれていたことを知らない態にして、受け流すように返事を送る。
 もう一人、私の救世主からもダイレクトメッセージがあった。

『あっちとやりとりして、全面的に私が悪かった、って反省したようだよ。問題の投稿消去とちゃんと謝れって言っておいたから』

 あなたは神か。
 私は、思わずわらってしまった。
 全く関わりがなかったのに、ここまで助けてくれるだなんて、神でしかない。
 きちんとお礼のメッセージを送らなければ、と、思ったものの、私はこの人の名前を知らない。
 一文字【か】しか、名前の欄に書いてないからだ。

『本当にありがとうございました! 助かりました!! あの、今更ですが、名前はなんと呼べばいいですか?』

『俺? 俺の名前はカズヒコだけど、表では、【か】さん、でいいよ。今回みたいな時、男の名前じゃやり取りしにくかっただろうし』

 私は、持っていたスマホを落としかけた。
 まさかの、男の人だった。
 こんな行動力のある男の人が、ネットの世界にもいただなんて。
 リアルだったら、見ず知らずの人が困っていたら、手を差しのべる人もいるだろうけれども、ネットで関わりが薄い人が困っていて、手を差しのべる人なんているのか、と、私はびっくりした。
 吊り橋効果、という言葉は、まさにこの事だった。
 今まで、ネットでの出会いなんてありえない、と断言していたけれども。

「……カズヒコさん」

 声に出して名前を呼んで、そして一人で赤面してしまう私。
 理想はあくまで理想であって、理想じゃなくても素敵な出会いってあるんだ。

 スマホのアラームが鳴り、リアルに引き戻される。
 私は、弾みをつけてベッドから起き上がった。

「バイトの準備しよーっと!」

 大きく伸びをして、大きな独り言をして自分に言い聞かせた。
 とても清々しい朝が待っていた。
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