第7話優しい人

文字数 586文字

 今更だけれども、それから私は、カズヒコさんに自己紹介をした。
 聞かれてもいないのに、本名や年齢や住んでいるところを伝えた。
 一方、カズヒコさんはといえば、住んでる地域や年齢は教えてもらったけれど、身分証明書で確認した訳ではないので定かではない。
 恋人がいるか、気になる人がいるかどうかも、怖くて聞けなかった。
 これが、好きな人はネットの人、の定めなのだろうか。

 本日もバイト。でも、頭のことは、カズヒコさんのことでいっぱいだった。

「きゃあ!」
「ちょっとヤマダさん、大丈夫!?」

 まさかの、バイト中にお皿を落として割ってしまった。こんなミスは初めてだ。

「すみません……」
「最近バイト詰めだったもんね、いいよいいよ」

 上司は、私が割った皿の破片を広い集めようとする。
ーー会いたいな。カズヒコさんに会いたくて仕方がない。
 頭の中がこれしかない、とは、さすがに言えなかった。

 バイトが終わり、家に帰り、本日のタイムラインを私は更新する。

【バおわ。あーぁ、今日はやらかしたー】

 書くと、カズヒコさんからメッセージが来ていた。

【バイトお疲れ様、何か仕事で失敗しちゃったのかな? どんまいどんまい!】

「優しいなぁ……」

 思わず、心の中の声がでてしまっていた。
 いつも辛いときに、大丈夫?、と、声をかけてくれて、メッセージもくれる、優しい人。
 ベッドにとびのって、私はにやけてしまった。


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