第8話歴代の彼氏

文字数 773文字

 お前の理想は高すぎる。

 歴代の彼氏に、何度この言葉で別れを告げられたことか。
 私は、自分の理想が高いと思ったことは一度もない。

 きちんと働いていて、ギャンブルはしないで、タバコは吸わない。
絶対浮気をしないでくれて、お酒は程々で日付が変わるまでには家に帰ってきてほしい。
 ただこれだけ。
これのどこが理想が高いのだろう。
 私の普通が他人にとっては普通じゃないのだろうか。

 でも、あくまで歴代の彼氏に言われたことであって、過去の話。
 今、やっと理想のあなたに出会えた。

「好きだなぁ……」

 自室で一人、私の声だけが響いた。
 そういえば、こんなことも言われたことがある。

ーー束縛が酷い。

 これも自覚はないのだが、こればっかりは歴代の彼氏のことも踏まえてきをつけなくては。
 私は、よし、と気合いを入れてカズヒコさんのタイムラインを見る。
 見てみると、いろんな人のおはよう、や、おやすみ、に返事をしている。
挨拶をすることは、いいことだし普通のことなんだけど……

「いいなぁ」

 思わず、口をついて出てきた。
 私のいつも辛いときに、大丈夫?、と、声をかけてくれる。
ダイレクトメールもくれる、優しい人。
 でも、優しいのは、私に対してだけじゃない。
みんなに平等に優しいのだ。
 依存しすぎて、カズヒコさんが違う人と絡んでいると嫉妬してしまう。
 これって、好きだから嫉妬しちゃってるんだよね。
 ネットのつながりから、一つ上の段階にいくには……
 私は、唐突にカズヒコさんにメッセージを飛ばす。

【私に会ってくれませんか?】

 そう、メッセージを飛ばした。
 もし会えれば、ネットの中でも特別な存在、って思われると思う。
 会いたすぎて辛い。
 文面だけじゃなくて、オフ会という形でも最初はいいから。
 これが、私の束縛が酷いと言われるゆえんなのかもしれないと、私は気付いてはいなかった。
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