第12話こりごり

文字数 587文字

「あら、ヤマダさん、今日は来るの早いわね」

 バイトのロッカー室で、制服に着替えている私は、上司に呼び止められた。
 バイト時間までは、後一時間程時間に余裕がある。
 昨日、カズヒコさんをリアルで見て、私の何かが吹っ切れたのだ。
 どうやって昨日帰って来たのかは、すっぽり記憶が抜け落ちているが、今現在、私はバイト先にいる。

「はい! あの、お願いがありまして……」
「また休みの交渉?」
「はい、私を毎日働かせてください!」

 上司は、ぽかんとした顔をする。
 私は、上司の返答をにこにこ期待しながら待っていた。

「ま、まいにち……?」
「はい! なんなら、二十四時間!」

 上司は、戸惑いの色を隠せない。

「待って待って、何があったの?」
「私、今を生きようと決めたんです!」

 私のカズヒコさんへの思いは、引きずりはしなかった。
 正しくは、引きずらないように試みた。
 SNSを消した。抹消したのだ。
 連絡ツールは、本当の電話番号での通話だけ。
 疑わしいものは、全て消し去った。

「お金がやばいとか?」
「お金じゃなくて、気持ちがやばくて」

 私が、えへへ、と、笑って見せると、上司は、なんとなく察してくれたようだ。

「毎日、二十四時間なんて無理だけど、できるだけお言葉に甘えようかな?」
「はい!」

 私の表情は、パアッと明るくなった。
 今はもう、ロッカーの中に置いている携帯電話は、なんの通知もこなくなった。

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