第10話下準備

文字数 684文字

「え、次の金曜日、休みたい?」
「はい、だめでしょうか……?」
「金曜日って、明後日よね?」

 思い立ったら即行動、という言葉よりも、恋は盲目、の言葉の方があっているかもしれない。
 私は、一日でも早くカズヒコさんに会いたく、無理を承知に上司にバイトのシフト変更をお願いした。
 上司は、しばらく悩んでいたが、
「いつも頑張ってもらってるしね、いいわ」
と、返事をしてくれた。
 これこそ、日頃の行いの成果である。持つべきものは信頼である。

 休みは、とれた。
 でも、カズヒコさんには、連絡はしない。
 サプライズで会いに行くのだ。

 今日もまた、カズヒコさんのタイムラインをみると、好きなアイドルの写真をあげて、可愛いなぁ、好きだなぁ、と呟いている彼がいた。
 愛してる、好きだ、なんて、表に出して言うことになんの意味があるのだろう。
 私は知っている、カズヒコさんは、いろんな女の子に、そんな浮いた言葉を使っていることを。
 私だけじゃなく、色んな女の子を手玉にとって、愛してるよ、好きだよ、I LOVE YOU、なんて文面を送っていることを。
 もちろんそれは、アイドルだけじゃなく、裏できっと一般人に向かっても使っているに違いない。
 色んな女の子にじゃなく、その言葉は私だけにかけてほしいのに。私だけの人になってほしいのに。
 あなたのLoveは軽すぎた。

 金曜日は明後日、資金調達も下調べも完了した。やっとこれで会いにいける。
 本当の愛を届けに行くよ。言葉だけじゃない、文面だけじゃない好きを。

「ふふ、Love you……」

 私はスマートフォンでカズヒコさんのプロフィール画面を見て呟いた。
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