【episode5-愛おしい背中】

文字数 373文字

真新しい机と椅子。

高校の教室は、義務教育の中学校とは違う空気が漂っている。



そんな環境で魁人と沙楽の恋が始まるまで、それほど多くの時間は要らなかった。



出席番号が続いている2人は、席が前後である。

沙楽(さら)は、授業中に魁人(かいと)の広く骨張った背中を見るのが好きだった。



授業中だというのに、抱きしめ合った時に触れた魁人の骨格を思い出す。

沙楽は、1人で妄想に頰を染めている自分がなんだか可笑しかった。



そんな時、沙楽は思うのだ。

『あぁ、魁人が好きだなあ。』



好きという言葉では量りきれないけど言葉にするならば好き。

愛してるは照れくさい。



初めて深い部分で結ばれた2人は、互いの肌にのめり込み夢中になった。

だが、蕩けるように幸せな日々は、そう長くは続かなかったのである。



好きだった。

だが、それ以上に苦しかったのだ。



互いを傷つけた幼く不器用な恋は、5月に始まり8月に終わった。
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