【episode8-絡まる糸】

文字数 335文字

「今年も来た。」

沙楽(さら)は、携帯電話の画面を見つめながら、安堵の気持ちを感じていた。



魁人(かいと)が父親になってからも、誕生日のお祝いメッセージや近況報告で年に数回の連絡がある。

恋が上手くいかず辛いことがあると互いに頼り相談し合うのだ。



例え肉体的には会えなくても、2人は心で繋がり互いの魂を支え合っていた。



しかし、問題が解決し、互いがパートナーと仲直りすると再び静寂の時間が訪れる。

なぜ私は、こんな中途半端で自分を悲しませる人と縁を繋げ続けるのだろう…。



沙楽は、幾度もそう思うことがあった。



だが、迷いの中にいながらも、沙楽を虚しくも儚い関係に(とど)まらせていたものがあった。

それは、最終的に『彼の戻る場所でありたい』という思い。



ただ、その思いだけが細い糸のように沙楽の心に絡みついていた。

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