【episode12-麗らかな懐】

文字数 743文字

間も無く到着するという魁人(かいと)からの連絡を受け、沙楽(さら)と友人は店の外に出た。

そこには、車に(もた)れた魁人がいた。


相変わらず細身で長身、モデルのように(うら)らかだ。

懐かしさと苦しさが沙楽の胸に込み上げる。


沙楽(さら)と友人の姿に気づいた魁人が軽く右手をあげる。

魁人の目前まで近づくと、沙楽は友人の影に隠れるように、そっと(たたず)んでいた。


互いに少々の緊張感を感じながら立ち話をしていると、

「暑いなぁ。車の中で話すか?」魁人が社用車のドアを開けた。


密室に入ったことで互いの緊張がほぐれ、話が盛り上がる。

次々と飛び出す懐かしい名前に、あっという間に時間が経った。


「俺、そろそろ行かなくちゃ。彼女と飯食べに行く約束してるんだ。」

沙楽がもう少し話したいなとワクワクした瞬間に、指の隙間から魁人がスルリと抜け落ちてしまった。


突然やってきた別れの時間に沙楽が気落ちしていると、まるで子どもをあやすように「じゃあね。」と言いながら魁人が沙楽の髪に触れた。




やっぱり彼はズルい。



魁人の姿が見えなくなってもなお、胸のときめきがおさまらない沙楽は、友人と居酒屋に入った。

思った以上に大きく跳ねる心臓の音が気恥ずかしい。


はぁ、今夜は一緒に飲みたかったな。もう、これでまたしばらく会えないのか。

そう思いながら沙楽がグラスを傾けていると、魁人からSMSで画像が届いた。


車内で撮った写真は3人とも笑顔で楽しそうである。

沙楽は、魁人への想いがとめどなく溢れ出てくるのを感じた。


『魁人、今日は何時になっても来られないの?』

気がつけばSMSの画面に文字を打ち込んでいた。


『今、彼女とラーメン食べてるから多分行かれないかなぁ。今度またどこかで会おう。』


仲良く寄り添って麺を(すす)る魁人と彼女の姿が浮かぶ。

沙楽は、飲んでいたお酒が急に苦くなったように感じた。
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