(二)-4

文字数 350文字

 翌朝九時頃、晴海市場では仕入れに来た客らが概ね引けて、賑わいも落ち着き始めた。その頃、騒がしい集団が市場の通路を歩いてきた。
「魚臭い」とか水に濡れた床を見て「汚ねぇ!」とか「早く帰りたい」など、背の低い子どもたちが騒ぎながら通路をまっすぐ進んで行った。市場に社会科見学に来た小学生の集団だった。
 それを見て一般客の買い物のおつりを返した若手の女性社員である江戸川乙葉が、「魚市場だからね、魚臭いのは仕方ないよね」と笑顔で言った。
 千川は「汚えはないだろうに」と小学生の列を店頭から見送った。
 辰巳は床を見た。まだまだ新しさの残る施設の床面は確かに濡れていた。新しさが残るとはいえ土足で踏み込む場所だ。毎回終業時に床掃除をしているとはいえども、ちょっとした溝や角などに黒ずみなどができていた。

(続く)
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