(二)-8

文字数 344文字

 赤塚がそう言うと、次の瞬間、千川の右手のこぶしが赤塚の右頬を打っていた。赤塚は後ろに倒れ込み、反対側のカウンターに倒れかかった。その衝撃で半分程まで減ったつゆだくの牛丼大盛りのどんぶりが空中へ浮かび上がり、上下反転するように弧を描きながらそこにいた客の方へ飛んだ。そしてその半円の器からは、腹に収まるはずであったつゆを吸って茶色く変色した米と、玉ねぎと米国産牛肉を使って醤油で味付けされた具材と、七味唐辛子まみれになっている細切りの紅生姜が、地球の引力に引かれて食事中の客の腹めがけて落下し、背広とワイシャツの上に茶色と赤の染みを作った。斜め下から鼻面の方向に直線運動をしつつ回転する丼は会社員の鼻の軟骨に直撃した。会社員は後ろにのけぞり、そのまま後頭部から背後の廊下に落ちた。

(続く)
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