私達の未来(2)

文字数 2,837文字

 車に乗って出発。ちなみに無限は現在、当間先生の後継として女子大柔道部のコーチをしている。道場の方は息子さんが継ぐことになったんだけど、その十蔵さんは極端に女の子への耐性が低くて女子大なんか近付くこともできないんだそうだ。
 旦那が私より若い子達に指導してると思うと当然面白くはない。でも当間先生曰く浮気の心配は無いだろうって話だ。最初はやっぱり女子大生達にモテモテだったけど、あいつ口を開けば私と天道の自慢話ばっかりで現在はちょっと引かれているとか。
「まあ、パパは浮気するくらいなら血を吐きながら読経するよね」
「うー」
 チャイルドシートで頷く息子。言ってることがわかってるわけじゃないだろうけど意見が一致したように見えて嬉しい。
「あれ? あそこにいるのって、もしかして──」
 駐禁を取り締まってる背の高い婦警さんの後ろ姿に見覚えがあったため、近くに寄せて声をかけてみる。
「あの、もしかして勇花さん?」
「え? ああっ、大塚君!」
「あら知り合い?」
 振り返り、先輩らしき別の婦警さんに問われたのは予想通り勇花さんだった。こんなにスラリと背が高くて立ち姿の綺麗な女の人、そうそういないからね。
「高校時代の級友ですよ先輩。生徒会では僕の右腕として支えてくれました」
「右腕というか、全然働いてくれない勇花さんの代わりに九割方の仕事を他のメンバーがやってたよね」
「あなた昔からそうなのね。それにしても本当に生徒会長だったとは……」
「面白かわいいへっぽこ生徒会長としてなら愛されてました」
「納得」
「ははっ、今はもちろん面白かわいいへっぽこおまわりさんとして頑張っているよ!」
「せめて“へっぽこ”を返上しろ」
 決めポーズをとったところで額にチョップをくらう彼女。しっかりした人がついていてくれるみたいだ。これなら心配いらないな。
「じゃあ、これから私も仕事だから。またね勇花さん、今度皆で集まろう」
「了解、いってらっしゃい大塚君! 運転にはくれぐれも気を付けてね、君が事故ったら泣いちゃうよ僕ぁ!」
「はは、うん、気を付けます。そちらの方も、お邪魔しました」
「はい、お気をつけて」
 そして再び発進。勇花さん、ちゃんと警官してるんだなあ。警察学校を卒業できたこと自体が奇跡だと思ってたけど。

 ちなみに千里ちゃんは浮草のじいちゃんの弟子として修行した後、そのまま後継として新聞社に就職した。基本的にはカメラマンなんだけど最近は記事も書かせてもらっているらしい。地域のちょっとしたネタでも、子供心を忘れない彼女らしい視点で面白おかしく紹介してくれるって読者から評判だそうだ。

 高徳院兄妹は一族の経営している会社に入社。慶さんは次代の社長として経験を積んでいる最中。舞さんはその補佐。でも舞さんはそれだけで終わるつもりは無いみたい。社内での地位を上げて、いつかはお父さんに認めてもらい独立したいって言ってた。高徳院の名をさらに上げるには兄妹どちらもひとかどの人物として成功する方が効果的だってのが彼女の持論。たしかに敷かれたレールの上を走り続けるより、そっちの方が舞さんの性分に合ってると私も思う。
 美浜さんと澤さんも今はそれぞれの親御さんの下で修行中だけど、時が来たら舞さんの独立に協力するって言ってた。その日が来たら私もできるかぎり力を貸したいな。

 高徳院と言えば、ライバルのカガミヤでは雫さんが引退。息子の穀雨さんが跡継ぎかと思いきや、本人にその気が無くて時雨さんが新総帥になった。長年勤めてあの会社のことをよくわかっている人だし人望も厚く、今のところつつがなくこなせていると聞く。
『まさか、今頃になって養父の夢が叶うなんてね……』
 一族の当主は雫さんのままだけど少なくとも表舞台でのトップには立てた。少しはあの人も喜んでくれてるかなと寂しそうに笑っていた。
 ちなみに穀雨さんとの間の子は三人に。まだまだ産めるけど、当面は社長業の方に集中するつもりらしい。で、夫の穀雨さんはといえば専業主夫として家庭を守ってる。意外なことに家事万能なんだあの人。料理もすごく上手。
 なんか、お互い馴染んで来たのかな、最近はあの人に会っても胸がざわざわすることは無くなった。

 雫さんが引退したのは年齢が理由。見た目が若々しすぎて忘れがちだけど、あの人ってうちの父さんと同い年なんだよね。誕生日は半年早い。一九八五年生まれだから今は五十歳か。
 鏡矢の血が濃いとなかなか老けないのでメイクで実年齢を誤魔化しながら働き続けるか、世間に疑われないうちに引退して表舞台から退くのが常なのだそうだ。私も一度しか顔を合わせたことのない前当主・雫さんのお父さんが家にいないのも、普段はそういう理由で鏡矢家が所有している島で暮らしているから。
 ただ雫さんの場合、隠居しても人目を忍んで暮らすつもりは全く無いらしく、今までの分も遊んで暮らすぞと言って世界中を飛び回っている。ニッカさんが毎回同行してくれていて安心だと時雨さん達は笑ってた。たまに帰って来ては私達に会いに来たり三人の孫に稽古をつけたりもする。
 それにしても、雫さんはニッカさんのことを気兼ねなく接することのできる友人だって言ってたけど、ニッカさんは友達以上になりたい感じなんだよな。あの人の愛が雫さんに通じて二人が結ばれるなんて展開もあるんだろうか?

 そうそう、駄菓子屋のおばあちゃんも健在。こないだ久しぶりに行ってみたら、今度はうちの天道が大きくなって通ってくれるようになるまで死ねないなんてジョークか本気かわからない一言をいただいた。流石にもう店の経営はサラさんがメインになってるみたいだけどね。

 駄菓子屋関係で言うと鈴蘭さんとは年に一回くらい会える感じ。うちの正道があの人の娘のアヤメちゃんにずっと片想いしてるんだよね。なのに年一ペースでしか会えないから私達は密かに織姫と彦星みたいって思ってる。この二人の関係も発展するかどうかはまだまだ未知数。

 さおちゃんは私と無限が結婚した翌年、勇花さんの弟の勇馬君とゴールイン。それでもやっぱりカガミヤには就職して商品開発部でバリバリ働いてる。勇馬君の方はまだ医大生。順当にいけば来年卒業。早くお医者さんになって一家の大黒柱として働きたいそうだ。
 鼓拍ちゃんは神住市内のショッピングモールで働いている。なんとラーメン屋。将来は自分の店を開きたいらしい。たまに家族で行って売り上げに貢献してるよ。音楽も趣味で続けていて中学時代の音楽部の先輩達と一緒にたまにライブハウスで演奏。暇な時でいいから参加しないかと私とさおちゃんにも誘いが来た。それも面白いかもと検討中。
 音海君は検察官が目標。なので勇馬君と同じでやっぱり勉強中。こちらは鼓拍ちゃんと籍を入れるのは、きちんと一人前になってからだと主張。あんまり待たせたら鼓拍ちゃんに愛想をつかされるんじゃないかと心配だ。以前同じようなことを言っていた私が言えた義理じゃないかもだけど。
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