娘vsライバル
文字数 4,570文字
七不思議ツアーをしてから早八ヶ月。高二になった私にはライバルができていた。
「きいいいいいいいっ! 悔しいっ!!」
校則違反にならないのかな? 古い漫画の中でしか見たことがなかった長い縦ロールを振り乱し、本気で悔しがる美人さん。これまた本当に持ってる人を初めて見た扇子の先をこちらへ向けたかと思うと涙目で宣言する。
「次こそは! 次こそは勝ってみせますわ、大塚さん!」
「あ、はい」
「なんですの、その気の抜けた返事!?」
「いや、だって……」
彼女が言ってるのは壁に張り出された中間試験の順位のこと──なんだけど、別に一位とかじゃないんだ私。二十三位。しかも彼女の方は五十二位。トップ争いしてるわけでも僅差で競ってるわけでもないのに、よくあんなに盛り上がれるなって……。
「他の方の順位は関係ありません! わたくしがあなたに負けている、その事実こそ重要なのです!」
「あの、お兄さんのことなら謝るから……」
「お黙りなさい! 実力で、わたくし自身の力で勝利をもぎとってみせますわ!」
ぷいっとそっぽを向くと、ほっぺを膨らませたまま早足で歩み去ってしまった。ううん、こういうことは言いたくないけど、なんてめんどくさい兄妹だ。
「妹がすまない、大塚くん」
「手を離してください、会長」
「非礼の詫びとして映画に誘いたいのだが」
「行きません」
「つれない態度だ、だがそこがいい」
「もう授業が始まるので」
「ああ、またしても残酷な時の流れがぼく達を別つ。けれど、ぼくは信じている。流れの先でいつかまたきみに出会うことを」
ぬるっと現れた長身の美男子は、くるくるターンしながら去って行った。一回転ごとに女子達が黄色い声を上げる。なんであんなに人気あるんだろ……たしかに顔は良いし愛嬌のある性格だとは思うけど。
「この学校、キャラの濃い人多いよね……」
実はずっと隣にいたさおちゃん。私達もけっこう目立つ方だと思うんだけど、あの兄妹が近くにいると霞んじゃう。
高徳院 兄妹。生徒会長を務める兄と書記の妹。名前は慶 と舞 。
二人とも非常に整った顔立ちで、なおかつ兄妹だけあって良く似ている。それと高徳院家は鏡矢に並ぶ名家だそうで、入学当初からそっちの理由で時々声をかけられていた。
『あなた、姓は違ってもわたくしにはわかります。その顔立ち、鏡矢ですね。名家の子女同士仲良くいたしましょう』
「──去年までは良い関係だったと思うんだけどなあ」
普通に友達だった。あの人、お嬢様の割に気さくでね、趣味も庶民的なんだ。よく編みぐるみを作って来てはうちの双子にプレゼントしてくれたなあ。古い漫画が大好きで遊びに来るたび父さんの蔵書を読み漁ったり。世話焼きで困ってる人を放っとけないから皆に慕われてるよ。
でも、
「会長をふっちゃったもんね、あゆゆ」
「ああもう」
去年のクリスマス、私はお兄さんの慶さんに告白されて断った。ところがあの人、木村と同じタイプだったらしい。一回失敗したくらいでは挫けず、それからもことあるごとにアプローチを仕掛けてくる。
で、それが妹の舞さんには気に入らない。彼女、重度のブラコンだから。
『あなたに勝って、お兄様の愛を取り戻してみせます!』
なんて一方的に宣戦布告されたのは三ヶ月前のバレンタイン。会長にはチョコを渡してないのに。
「逆にもらったじゃない、すんごい花束」
「ホワイトデーにお返しのクッキー渡したのがまずかったかなあ……」
飛び上がって喜んだもんな、会長。クッキーの意味はこれからも友達でいようね、なんだけど伝わってないみたい……。
そして時は流れ──九月下旬。二度目の文化祭が終わった直後、もう一つの大イベントが始まった。新たな生徒会長を決める選挙だ。
体育館。これから候補者の演説が行われるその会場で頭を抱えて唸ってしまう。
「どうしてこうなった……」
「がんばってください、先輩!」
「僕らも応援してます!」
背後から励ましてくれる二人は日ノ打 鼓拍 ちゃんと音海 風我 君。そう、中学の時に同時に告白してきた後輩達。私と同じく教師志望の風我君がこの学校を選び、彼女の鼓拍ちゃんも必死に勉強してついてきた結果、また同じ学び舎に。ここなら私とさおちゃんがいて安心ってのもあったらしい。
二人の交際が今なお続いてることは嬉しいんだけど、ここで応援されるのは複雑な気分。だって私、生徒会長になんてなりたくないし。
「誰だよ、五人からの他薦で立候補が成立するなんてルール考えたやつ!」
「往生際が悪い。ここまで来たら腹括りなさい」
嘆息するさおちゃん。さおちゃんもこの後、私の前に応援演説をする予定になっている。なんと今回、次期生徒会長として立候補されられてしまったのだ。しかもライバルによる他薦という形で。
「おーーーーーーーっほっほっほっほっ! ついに、ついに決着をつける時が来ましたね大塚さん!」
「高徳院さん……」
勝手に私のライバルを自称する縦ロールのお嬢様がいかにもお嬢様らしい高笑いと共にステージ裏の候補者控室へ入って来た。
「ついにも何も、今まで私が全勝してるんだけど」
「前哨戦! これまでの戦いは所詮この日のための前哨戦にすぎません! 現会長であるお兄様の後継になる! それすなわち、お兄様の寵愛を受けるに相応しい者として全校に認められること! そうではなくて?」
「そうかなあ?」
本人に認められなくちゃ意味が無いんじゃ?
「そうなのです! 今度こそ、今回こそは打ち負かしてあげますわ大塚さん!」
「だからって対立候補を推薦するかね……」
今度は呆れ顔になるさおちゃん。そう、私を会長選の候補者として他薦したのは高徳院さんとその友人達なのである。
「すまない大塚。舞は言い出したら聞かない性格だから」
「その代わり、これで負けたら二度とご迷惑をかけないよう約束させましたので」
高徳院さんといつも一緒にいる幼馴染の美浜 さんと澤 さん。前に出て頭を下げてくれた。二人の言葉は私にとって救いの光。
「本当に!?」
「ええ、こちらが誓約書です」
のんびりした動作で書類を広げてみせる澤さん。なるほど、なるほど、たしかに書いてある。会長選で負けたら今後は絶対に私に勝負を挑まないって。
「ありがとう二人とも!」
「いえいえ」
「舞ちゃんと慶兄がご迷惑をおかけしているので、このくらいは……」
お互い頭を下げ合っていると、高徳院さんが怒り出した。
「ちょっと! あなた達はわたくしの味方でしょ!」
「それはそれとして大塚さんも友達だから」
「うん」
「きいいいいいいっ! わたくしから友達まで奪う気ですのね、大塚さん!」
「誤解だってば!」
などと騒いでるうちに応援演説が始まった。ステージへ向かう直前、さおちゃんは緊張した表情で振り返る。
「あゆゆ、しっかり援護するからね」
「うん、頼りにしてるよ!」
「ファイトです先輩!」
「絶対に大塚先輩を勝利に導きましょう!」
「任せときな。これが終わったら、みんなで祝勝会をしよう」
待ってさおちゃん、そのセリフは嫌な予感がする。
──当たった。
「開票の結果、新生徒会長は御剣 勇花さんに決定しました!」
きゃあーーーーーっと、体育館に並んだ生徒達から歓声が上がる。主に女子なんだけど一部は男子からも。
「ありがとう! ありがとう僕の子猫ちゃん達!」
手を振って祝福に応える御剣新生徒会長。そうだよ、今回は勇花さんも立候補してたんだった……。
前生徒会長となった慶さんが勇花さんに近付く。
「ふふっ、おめでとう御剣君。正直言って君自身は不安しかない人材だが、幸いにも友人には恵まれている。彼女達と力を合わせて頑張ってくれ」
「ありがとうございます! 会長を見習って一年間精一杯務めあげます!」
「ははは、もう君が生徒会長だ。さあ、もう一度みんなの声に応えてあげなさい!」
「はいっ!」
そして壇上で二人並んで手を振り始める慶さんと勇花さん。一際熱狂する会場。まるで宝塚の舞台を見ているかのような光景。
敗北者となった私達は、その後ろでがっくり肩を落とした。
「勇花さん、あんなに人気あったんだ……」
「ビジュアル面ではあゆゆに負けてないし、それでいてドジッ子で苦手なものが多いってギャップが男子にまでウケてんのよ……」
「わたくしが、このわたくしが、大塚さんどころか庶民の方に敗北……」
「普段から負けてるだろ」
「舞ちゃん、本当に慶さんと大塚さんのことしか眼中に無いのね」
「先輩達の決着は」
「お流れだね」
ああ、今後も何かと絡まれるのか……せっかくのチャンスを逃した私は、また深くため息をつく。その視線の先では新聞部の千里ちゃんが、勇花さんの晴れ姿を色んな角度から写真に収めていた。
悔しいけど、おめでとう勇花さん!
さらに数日後の生徒会室。私は“副会長”としてここへ来る羽目になった。会長以外の役員は新会長による指名制なのだ。だから勇花さんが当選した時点でこうなることは予測できてた。
勇花さんが会長。私が副会長。そして書記は──
「どうしてわたくしがまた書記で、大塚さんが副会長ですの!?」
ご覧の通り、高徳院さん。
「だって僕、高徳院君のことはよく知らないし。これから仲良くしようね」
椅子に座った勇花さん、高徳院さんに詰め寄られ肩を竦める。
「だからって!」
「あれ? よく知らないのになんで指名したの?」
私が疑問を投げかけると、勇花さんはこちらを向いて答えた。
「前会長から、一人は生徒会の活動に詳しいメンバーを入れた方がいいってアドバイスをもらったんだ」
あ、なるほど。だから元々書記だった高徳院さんを引き入れたんだ。
「で、なんであたしまで生徒会なのよ?」
「暇そうだったから」
「そりゃ、うちの部は週三日の活動だけど……」
納得いかない表情のさおちゃん。こちらは会計を任された。ちなみに私とさおちゃんと鼓拍ちゃんは中学時代と同じく吹奏楽部とは別の音楽部を作って少人数で気楽に演奏している。
それから、まだ来てないけど庶務は風我君で広報は鼓拍ちゃんになった。一年生を最低二人は入れる決まりになっているそうだ。他に議長と監査という役職もあり、それぞれ澤さんと美浜さんが就任した。
「女子ばっかりね」
メンバー表を見て眉をひそめるさおちゃん。たしかにちょっと偏りすぎてない?
「僕の生徒会に男子は入れないでって意見が多くてね。音海君は日のノ内君と交際してるから例外」
ああ、そうか、勇花さんのファンからの圧力があったのか。まあ友達ばっかりだしやりやすいっちゃやりやすいかな。生徒会としては身内びいきが無いように気をつけなくちゃいけないけど。
これからどうすべきか、考え始めた私を見て勇花さんがふふっと笑う。
「なに?」
「いや、歩美君を引き入れて良かったなって。沙織君も頼りになるし」
「新会長! わたくしを忘れてなくて!?」
「まだよく知らないから」
「くっ……負けません、負けませんわ! 本当の戦いはここから! 次は、どちらがより生徒会役員として活躍できるかで勝負ですわ大塚さん!」
「りょーかい」
やっぱり、もうしばらくこの人との勝負は続くようだ。でも生徒会役員ってどんな仕事をするんだろ? なんにせよ大変な一年になりそう。
なお、私が副会長に選ばれたその日、父さんは特上寿司をとった。
大袈裟だよ!
「きいいいいいいいっ! 悔しいっ!!」
校則違反にならないのかな? 古い漫画の中でしか見たことがなかった長い縦ロールを振り乱し、本気で悔しがる美人さん。これまた本当に持ってる人を初めて見た扇子の先をこちらへ向けたかと思うと涙目で宣言する。
「次こそは! 次こそは勝ってみせますわ、大塚さん!」
「あ、はい」
「なんですの、その気の抜けた返事!?」
「いや、だって……」
彼女が言ってるのは壁に張り出された中間試験の順位のこと──なんだけど、別に一位とかじゃないんだ私。二十三位。しかも彼女の方は五十二位。トップ争いしてるわけでも僅差で競ってるわけでもないのに、よくあんなに盛り上がれるなって……。
「他の方の順位は関係ありません! わたくしがあなたに負けている、その事実こそ重要なのです!」
「あの、お兄さんのことなら謝るから……」
「お黙りなさい! 実力で、わたくし自身の力で勝利をもぎとってみせますわ!」
ぷいっとそっぽを向くと、ほっぺを膨らませたまま早足で歩み去ってしまった。ううん、こういうことは言いたくないけど、なんてめんどくさい兄妹だ。
「妹がすまない、大塚くん」
「手を離してください、会長」
「非礼の詫びとして映画に誘いたいのだが」
「行きません」
「つれない態度だ、だがそこがいい」
「もう授業が始まるので」
「ああ、またしても残酷な時の流れがぼく達を別つ。けれど、ぼくは信じている。流れの先でいつかまたきみに出会うことを」
ぬるっと現れた長身の美男子は、くるくるターンしながら去って行った。一回転ごとに女子達が黄色い声を上げる。なんであんなに人気あるんだろ……たしかに顔は良いし愛嬌のある性格だとは思うけど。
「この学校、キャラの濃い人多いよね……」
実はずっと隣にいたさおちゃん。私達もけっこう目立つ方だと思うんだけど、あの兄妹が近くにいると霞んじゃう。
二人とも非常に整った顔立ちで、なおかつ兄妹だけあって良く似ている。それと高徳院家は鏡矢に並ぶ名家だそうで、入学当初からそっちの理由で時々声をかけられていた。
『あなた、姓は違ってもわたくしにはわかります。その顔立ち、鏡矢ですね。名家の子女同士仲良くいたしましょう』
「──去年までは良い関係だったと思うんだけどなあ」
普通に友達だった。あの人、お嬢様の割に気さくでね、趣味も庶民的なんだ。よく編みぐるみを作って来てはうちの双子にプレゼントしてくれたなあ。古い漫画が大好きで遊びに来るたび父さんの蔵書を読み漁ったり。世話焼きで困ってる人を放っとけないから皆に慕われてるよ。
でも、
「会長をふっちゃったもんね、あゆゆ」
「ああもう」
去年のクリスマス、私はお兄さんの慶さんに告白されて断った。ところがあの人、木村と同じタイプだったらしい。一回失敗したくらいでは挫けず、それからもことあるごとにアプローチを仕掛けてくる。
で、それが妹の舞さんには気に入らない。彼女、重度のブラコンだから。
『あなたに勝って、お兄様の愛を取り戻してみせます!』
なんて一方的に宣戦布告されたのは三ヶ月前のバレンタイン。会長にはチョコを渡してないのに。
「逆にもらったじゃない、すんごい花束」
「ホワイトデーにお返しのクッキー渡したのがまずかったかなあ……」
飛び上がって喜んだもんな、会長。クッキーの意味はこれからも友達でいようね、なんだけど伝わってないみたい……。
そして時は流れ──九月下旬。二度目の文化祭が終わった直後、もう一つの大イベントが始まった。新たな生徒会長を決める選挙だ。
体育館。これから候補者の演説が行われるその会場で頭を抱えて唸ってしまう。
「どうしてこうなった……」
「がんばってください、先輩!」
「僕らも応援してます!」
背後から励ましてくれる二人は
二人の交際が今なお続いてることは嬉しいんだけど、ここで応援されるのは複雑な気分。だって私、生徒会長になんてなりたくないし。
「誰だよ、五人からの他薦で立候補が成立するなんてルール考えたやつ!」
「往生際が悪い。ここまで来たら腹括りなさい」
嘆息するさおちゃん。さおちゃんもこの後、私の前に応援演説をする予定になっている。なんと今回、次期生徒会長として立候補されられてしまったのだ。しかもライバルによる他薦という形で。
「おーーーーーーーっほっほっほっほっ! ついに、ついに決着をつける時が来ましたね大塚さん!」
「高徳院さん……」
勝手に私のライバルを自称する縦ロールのお嬢様がいかにもお嬢様らしい高笑いと共にステージ裏の候補者控室へ入って来た。
「ついにも何も、今まで私が全勝してるんだけど」
「前哨戦! これまでの戦いは所詮この日のための前哨戦にすぎません! 現会長であるお兄様の後継になる! それすなわち、お兄様の寵愛を受けるに相応しい者として全校に認められること! そうではなくて?」
「そうかなあ?」
本人に認められなくちゃ意味が無いんじゃ?
「そうなのです! 今度こそ、今回こそは打ち負かしてあげますわ大塚さん!」
「だからって対立候補を推薦するかね……」
今度は呆れ顔になるさおちゃん。そう、私を会長選の候補者として他薦したのは高徳院さんとその友人達なのである。
「すまない大塚。舞は言い出したら聞かない性格だから」
「その代わり、これで負けたら二度とご迷惑をかけないよう約束させましたので」
高徳院さんといつも一緒にいる幼馴染の
「本当に!?」
「ええ、こちらが誓約書です」
のんびりした動作で書類を広げてみせる澤さん。なるほど、なるほど、たしかに書いてある。会長選で負けたら今後は絶対に私に勝負を挑まないって。
「ありがとう二人とも!」
「いえいえ」
「舞ちゃんと慶兄がご迷惑をおかけしているので、このくらいは……」
お互い頭を下げ合っていると、高徳院さんが怒り出した。
「ちょっと! あなた達はわたくしの味方でしょ!」
「それはそれとして大塚さんも友達だから」
「うん」
「きいいいいいいっ! わたくしから友達まで奪う気ですのね、大塚さん!」
「誤解だってば!」
などと騒いでるうちに応援演説が始まった。ステージへ向かう直前、さおちゃんは緊張した表情で振り返る。
「あゆゆ、しっかり援護するからね」
「うん、頼りにしてるよ!」
「ファイトです先輩!」
「絶対に大塚先輩を勝利に導きましょう!」
「任せときな。これが終わったら、みんなで祝勝会をしよう」
待ってさおちゃん、そのセリフは嫌な予感がする。
──当たった。
「開票の結果、新生徒会長は御剣 勇花さんに決定しました!」
きゃあーーーーーっと、体育館に並んだ生徒達から歓声が上がる。主に女子なんだけど一部は男子からも。
「ありがとう! ありがとう僕の子猫ちゃん達!」
手を振って祝福に応える御剣新生徒会長。そうだよ、今回は勇花さんも立候補してたんだった……。
前生徒会長となった慶さんが勇花さんに近付く。
「ふふっ、おめでとう御剣君。正直言って君自身は不安しかない人材だが、幸いにも友人には恵まれている。彼女達と力を合わせて頑張ってくれ」
「ありがとうございます! 会長を見習って一年間精一杯務めあげます!」
「ははは、もう君が生徒会長だ。さあ、もう一度みんなの声に応えてあげなさい!」
「はいっ!」
そして壇上で二人並んで手を振り始める慶さんと勇花さん。一際熱狂する会場。まるで宝塚の舞台を見ているかのような光景。
敗北者となった私達は、その後ろでがっくり肩を落とした。
「勇花さん、あんなに人気あったんだ……」
「ビジュアル面ではあゆゆに負けてないし、それでいてドジッ子で苦手なものが多いってギャップが男子にまでウケてんのよ……」
「わたくしが、このわたくしが、大塚さんどころか庶民の方に敗北……」
「普段から負けてるだろ」
「舞ちゃん、本当に慶さんと大塚さんのことしか眼中に無いのね」
「先輩達の決着は」
「お流れだね」
ああ、今後も何かと絡まれるのか……せっかくのチャンスを逃した私は、また深くため息をつく。その視線の先では新聞部の千里ちゃんが、勇花さんの晴れ姿を色んな角度から写真に収めていた。
悔しいけど、おめでとう勇花さん!
さらに数日後の生徒会室。私は“副会長”としてここへ来る羽目になった。会長以外の役員は新会長による指名制なのだ。だから勇花さんが当選した時点でこうなることは予測できてた。
勇花さんが会長。私が副会長。そして書記は──
「どうしてわたくしがまた書記で、大塚さんが副会長ですの!?」
ご覧の通り、高徳院さん。
「だって僕、高徳院君のことはよく知らないし。これから仲良くしようね」
椅子に座った勇花さん、高徳院さんに詰め寄られ肩を竦める。
「だからって!」
「あれ? よく知らないのになんで指名したの?」
私が疑問を投げかけると、勇花さんはこちらを向いて答えた。
「前会長から、一人は生徒会の活動に詳しいメンバーを入れた方がいいってアドバイスをもらったんだ」
あ、なるほど。だから元々書記だった高徳院さんを引き入れたんだ。
「で、なんであたしまで生徒会なのよ?」
「暇そうだったから」
「そりゃ、うちの部は週三日の活動だけど……」
納得いかない表情のさおちゃん。こちらは会計を任された。ちなみに私とさおちゃんと鼓拍ちゃんは中学時代と同じく吹奏楽部とは別の音楽部を作って少人数で気楽に演奏している。
それから、まだ来てないけど庶務は風我君で広報は鼓拍ちゃんになった。一年生を最低二人は入れる決まりになっているそうだ。他に議長と監査という役職もあり、それぞれ澤さんと美浜さんが就任した。
「女子ばっかりね」
メンバー表を見て眉をひそめるさおちゃん。たしかにちょっと偏りすぎてない?
「僕の生徒会に男子は入れないでって意見が多くてね。音海君は日のノ内君と交際してるから例外」
ああ、そうか、勇花さんのファンからの圧力があったのか。まあ友達ばっかりだしやりやすいっちゃやりやすいかな。生徒会としては身内びいきが無いように気をつけなくちゃいけないけど。
これからどうすべきか、考え始めた私を見て勇花さんがふふっと笑う。
「なに?」
「いや、歩美君を引き入れて良かったなって。沙織君も頼りになるし」
「新会長! わたくしを忘れてなくて!?」
「まだよく知らないから」
「くっ……負けません、負けませんわ! 本当の戦いはここから! 次は、どちらがより生徒会役員として活躍できるかで勝負ですわ大塚さん!」
「りょーかい」
やっぱり、もうしばらくこの人との勝負は続くようだ。でも生徒会役員ってどんな仕事をするんだろ? なんにせよ大変な一年になりそう。
なお、私が副会長に選ばれたその日、父さんは特上寿司をとった。
大袈裟だよ!