第1話 邂逅

文字数 987文字

コード【code】
(法典の意)
一、規定。準則。「プレス‐―」
二、情報を表現する記号・符号の体系。また、情報伝達の効率・信頼性・守秘性を向上させるために変換された情報の表現、また変換の規則。変換を行うものをエンコーダー、情報を復元するものをデコーダーという。



 月の綺麗な夜だった。
 閑静な高級住宅街に位置する一際瀟洒な一軒の邸宅は、ひっそりと静まり返っており、聞こえて来る物音といえば、風に戦ぐ庭木の葉が擦れる音だけだった。この日は幾分風が強かった様で、庭木が立てる音は辺りに響き、宛ら女の怨嗟の泣き声の様であった。

 二人の黒服の男達が、静かに黒い闇を縫って、二階のベランダから邸宅内へと侵入した。一人は一階へと繋がる階段を滑る様に降り、この邸宅の主夫妻が眠る寝室へと到達し、消音器を装着した自動式拳銃を構えた。一発、二発と弾丸を発射し、これで任務完了という時であった。
「あ……がぁっ!」
二階から叫び声が聞こえた。確か、二階ではもう一人の黒服の男が、邸宅内の様子を確認している筈だった。一階に居た黒服の男は、瞬時に階段を駆け上がり、叫び声が聞こえた部屋に向かった。其処には、一人の血塗れの寝巻き姿の子供と、傍らには頭部から血を流す仲間の黒服の男の姿が在った。恐らくは、既に息絶えていると思われる。
「お前、誰?」
血塗れの子供が語り掛けて来た。肩まで伸びた栗色の長い髪やレースの付いた寝巻きからすると、恐らくは女の子か。白い肌に黄金色に光って見える瞳が、とても美しくて印象的だった。愛らしい風貌と似つかわしくないのは、その手に握られている物だ。血塗れのゴルフクラブを握り締め、その顔や髪、寝巻きにも、びっしりと返り血を浴びている。この状況では、仲間を殺害した犯人はその少女以外には考えられない。
「何故、彼を殺した……?」
男は恐る恐るその少女に問い掛けた。
「……私に殺意を向けたから。」
血塗れの少女は、道順を尋ねられた時の様に平然と答えた。
「では、何故俺は殺さないんだ?」
ゴルフクラブを握った手とは反対の左手の甲で、顔に飛び散った返り血を拭いながら、少女はゾッとする様な美しい笑顔で答えた。
「だって……お前には、私への殺意が無いから……。」

 これが、コードネーム『ランスロット』と呼ばれる暗殺者と、後にコードネーム『モルドレッド』と呼ばれる事になる暗殺者の、初めての出会いであった。
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