第8話 敵対組織

文字数 1,492文字

 或る日、突然に組織内の全ての暗殺者が地下会議室に集められた。重要な式典でも、全ての暗殺者が集められる事は先ず無い。何か余程の喫緊の事態についての召集であると、暗殺者の誰もが警戒をしていた。会議室の最前列には、ナンバーと呼ばれる暗殺者のエリート達が並び、その後ろには暗殺者の中でも実動班と呼ばれる部隊、その更に後ろには情報班、科学班と呼ばれる部隊が並んだ。『モルドレッド』はナンバーでは無かったが、入団時の飛び抜けた成績とその後の任務での成果で、ナンバー達と同じ列に並んでいた。勿論、『ランスロット』や『トリスタン』、『ガウェイン』等も同列に並んでいる。
 暫くの後、壇上に『アーサー』が現れた。相変わらず、黒いレースのカーテン越しでの登場だ。
「この度、皆に此処に集まって貰ったのは、他でも無い重大事項が発生した為だ。先日、我が『キャメロット』の暗殺者が任務中に殺害されるという事態が起こった。手口からして、相手もプロの暗殺者である事は間違いない。同様の事態が複数件起こっており、我が組織内で調査を進めていた。先日の情報班の報告では、そのどれもが或る宗教団体に接点が有るものだった。」
会議室内からは、ザワザワと事態を憂慮する声が漏れ聞こえた。
「教祖暗殺と行きたい所だが、我が組織の暗殺者をも、容易に始末出来る程の暗殺者を抱える教団、そう容易には事が運ばぬだろう。そこで、先ずは教団の幹部と思われる人物に接触を謀り、そこから徐々に内部に侵入する。内部事情を把握した上で、此方から一気に総攻撃を仕掛け、これを撃破する。今回の任務には、『ランスロット』、『トリスタン』、『ガウェイン』、そして『モルドレッド』を任命する。尚、失敗は許されない。以上だ。」
そう言って壇上を後にする『アーサー』を、静まり返った暗殺者達が見詰めていた。

 地下の小部屋で各々の任務を受け、今回の任命者達は長い廊下を移動しながら、其々が言葉を交わした。
「潜入って言ってもなぁ……。庶民の学校なんて解らねぇし。」
最初に口を開いたのは『ガウェイン』であった。庶民という言い回しに、『モルドレッド』が不思議な表情をしていると、『ガウェイン』が即座に解説を始めた。
「あぁ、俺の母親は日本人なんだが、父親は英国の公爵なんだよ。この組織に入るまで、公爵邸で家庭教師の教育しか受けた事が無いから、普通の学校には通った事が無いんだ。ま、まぁ……俺と結婚すれば、お前も何れは公爵夫人として……。」
顔を赤らめて熱く語る『ガウェイン』であったが、既に他の任命者達は数十メートル先を歩いていた。それとなく、『モルドレッド』の気持ちを確認するつもりであったが、残念ながら当の本人は既に別の会話に参加していた。
 「でもさぁ、宗教団体の幹部に取り入る為、その子供に接触するってのは良いと思うのよ。んで、先ずはその子供が通う私立高校に潜入ってのも良いんだけど……。『ランスロット』には流石に無理が有るんじゃない?」
軽薄な薄笑いを浮かべて『トリスタン』が、隣を歩く『ランスロット』に話し掛ける。
「煩い。俺は新任の教師として潜り込む。サバを読んで女子高生の振りをする、何処ぞのクソババァよりはマシだろう。」
その後、『トリスタン』と『ランスロット』の攻防戦が繰り広げられたのは言うまでもないが、そんな状況も『モルドレッド』には微笑ましい時間に思えた。養親宅では、『モルドレッド』も学校に通っていなかったのだ。それどころか、自由に外出する事も許されず、一日中書庫の本を読み漁っていた。彼女にとっては、書庫だけが唯一の学校であり、本だけが唯一の教師であったのだ。
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