八 再びテーブルのある部屋にて
文字数 2,048文字
「おう? 叶か? どうした?」
キッチンとテーブルのある部屋へ行くと、まだお酒を飲んでいたリッサが言った。
「密にお姉ちゃんだって言っちゃった」
叶はリッサの顔を見つめながら言い、床の上、リッサの横に腰を下ろした。
「密はどうしてるんだ?」
リッサの言葉に寝てると叶は答える。
「そうか。お前は寝ないのか?」
「うん。なんかすぐには眠れそうになくって」
リッサが言ったので叶は頷きながら言葉を返した。
「お前の事だ。いずれ言うと俺は思ってた。別れが更に辛くなるな」
リッサがお猪口の中のお酒を飲み干して言う。
「私はいいんだ。けど、密が。どうすればいいのかな。私がまたいなくなったらあの子、どうなっちゃうんだろう」
叶は顔を俯けながら言った。
「今のままだと、まずい事になるだろうな」
リッサの言葉を聞いた叶は、顔を上げてリッサの顔を見た。リッサが叶の顔を見返して来る。
「今から俺が見せる物をお前は見るべきではないと思う。だが、いつここからいなくなるか分からない俺達だ。できる事はやっておいた方がいいだろう。少しでも密の為に何かをしてやりたいとお前は思ってるんだろう?」
リッサがお猪口にお酒を注ぎながら言う。叶はリッサは何を見せようとしてるんだろうと思い不安になりながらも、うんと言って力強く頷いた。
「ガソリンの事があっただろう。密に聞きそびれたからな。悪いとは思ったが家の中を探らせてもらった。それで、これを見付けた」
リッサが言い、またお猪口の中のお酒を飲み干すと、理者の力を使って座っている叶の膝の上に一冊のノートを出現させた。
「これは?」
叶は言いながらノートを手に取る。
「密が書いた物のようだ」
リッサがお酒をお猪口に注ごうとしたが、徳利が空だったようで、両方の前足で持っていた徳利を床の上に置き、新しい徳利を出現させながら言った。
「この中に、私が見るべきじゃない物が書いてあるの?」
叶はノートの何も書かれていない表紙を見つめながら言った。
「そうだ」
リッサが言い、すっと四つの足で立ち上がる。
「なんか、怖いな。何が書いてあるんだろう」
叶はそう言うと、ノートの表紙をそっと手で撫でてから、ゆっくりとノートの表紙をめくった。中身は日記のようだった。叶は年月日とそれに続いて書かれている文章を目で追い始めた。
「大丈夫か?」
リッサが言う。数ページを読んだ所で、叶は涙を流し始めていた。
「大丈夫じゃない」
叶はノートから顔を上げると、リッサの方を見て言った。
「もういい。全部を知る必要はない。あいつがまた放火をしないようにしてやればいい」
リッサの言葉を聞いた叶は小さく首を左右に振った。
「最後まで読む。私はあの子のお姉ちゃんなんだから」
叶は言い、再びノートのページに目を落とした。
「俺も付き合おう。膝に乗せてくれ」
リッサが傍まで来て言う。
「うん」
叶は返事をするとリッサを膝の上に乗せた。叶は時間を忘れてノートを読んだ。呼んでいる途中で何度も何度も涙を拭いた。最後のページを読み終えると、叶は最初に表紙をめくった時と同じようにゆっくりと裏表紙を閉じた。
「こんな事になってたなんて。もっと密の事考えてあげるべきだった。これから、どうしよう。このノートの事、このノートを読んで知った事、密になんて言おう」
叶はノートの裏表紙を手で撫でながら独り言ちた。
「ありのままを言え。俺がノートを見付けて来て、読めと言ったといえばいい。それで知ったと言えばいい。それから、色々と話をすればいい」
リッサが言ったので、叶は泣き腫らした目でリッサの顔を見た。
「でも、それじゃ、リッサが」
「その方が話が早い。こういう事で余計な事は言わない方がいい」
叶の言葉を遮るようにリッサが言う。
「分かった。ノート、どこにあったの?」
密に言う時は、自分が偶然このノートを見つけったって言おうと思いながら叶が言うと、リッサが顔を上に向けた。
「二階だ。仏壇の引き出しの中だ」
リッサの口から出た仏壇という言葉を聞いて、叶は、お父さんとお母さんの仏壇だと思った。
「ノート、戻して来る」
叶が言って立ち上がろうとすると、リッサが叶の膝の上から飛び下りた。
「理者の力を使えばいい。俺が戻してやる」
立ち上がった叶の顔をリッサが言いながら見上げた。
「私がいた頃に仏壇なんてなかった。きっとその仏壇はお父さんとお母さんの仏壇だと思う」
叶はそう言うとノートを握る手に力を込めた。
「一緒に行こう。お前を一人にするのが心配になって来た。密の事もあるが、両親や妹の事もある。大丈夫か?」
リッサが犬然とした顔に心配そうな表情を浮かべて言う。
「うん。ありがとう」
叶は言いゆっくりと歩き出した。
キッチンとテーブルのある部屋へ行くと、まだお酒を飲んでいたリッサが言った。
「密にお姉ちゃんだって言っちゃった」
叶はリッサの顔を見つめながら言い、床の上、リッサの横に腰を下ろした。
「密はどうしてるんだ?」
リッサの言葉に寝てると叶は答える。
「そうか。お前は寝ないのか?」
「うん。なんかすぐには眠れそうになくって」
リッサが言ったので叶は頷きながら言葉を返した。
「お前の事だ。いずれ言うと俺は思ってた。別れが更に辛くなるな」
リッサがお猪口の中のお酒を飲み干して言う。
「私はいいんだ。けど、密が。どうすればいいのかな。私がまたいなくなったらあの子、どうなっちゃうんだろう」
叶は顔を俯けながら言った。
「今のままだと、まずい事になるだろうな」
リッサの言葉を聞いた叶は、顔を上げてリッサの顔を見た。リッサが叶の顔を見返して来る。
「今から俺が見せる物をお前は見るべきではないと思う。だが、いつここからいなくなるか分からない俺達だ。できる事はやっておいた方がいいだろう。少しでも密の為に何かをしてやりたいとお前は思ってるんだろう?」
リッサがお猪口にお酒を注ぎながら言う。叶はリッサは何を見せようとしてるんだろうと思い不安になりながらも、うんと言って力強く頷いた。
「ガソリンの事があっただろう。密に聞きそびれたからな。悪いとは思ったが家の中を探らせてもらった。それで、これを見付けた」
リッサが言い、またお猪口の中のお酒を飲み干すと、理者の力を使って座っている叶の膝の上に一冊のノートを出現させた。
「これは?」
叶は言いながらノートを手に取る。
「密が書いた物のようだ」
リッサがお酒をお猪口に注ごうとしたが、徳利が空だったようで、両方の前足で持っていた徳利を床の上に置き、新しい徳利を出現させながら言った。
「この中に、私が見るべきじゃない物が書いてあるの?」
叶はノートの何も書かれていない表紙を見つめながら言った。
「そうだ」
リッサが言い、すっと四つの足で立ち上がる。
「なんか、怖いな。何が書いてあるんだろう」
叶はそう言うと、ノートの表紙をそっと手で撫でてから、ゆっくりとノートの表紙をめくった。中身は日記のようだった。叶は年月日とそれに続いて書かれている文章を目で追い始めた。
「大丈夫か?」
リッサが言う。数ページを読んだ所で、叶は涙を流し始めていた。
「大丈夫じゃない」
叶はノートから顔を上げると、リッサの方を見て言った。
「もういい。全部を知る必要はない。あいつがまた放火をしないようにしてやればいい」
リッサの言葉を聞いた叶は小さく首を左右に振った。
「最後まで読む。私はあの子のお姉ちゃんなんだから」
叶は言い、再びノートのページに目を落とした。
「俺も付き合おう。膝に乗せてくれ」
リッサが傍まで来て言う。
「うん」
叶は返事をするとリッサを膝の上に乗せた。叶は時間を忘れてノートを読んだ。呼んでいる途中で何度も何度も涙を拭いた。最後のページを読み終えると、叶は最初に表紙をめくった時と同じようにゆっくりと裏表紙を閉じた。
「こんな事になってたなんて。もっと密の事考えてあげるべきだった。これから、どうしよう。このノートの事、このノートを読んで知った事、密になんて言おう」
叶はノートの裏表紙を手で撫でながら独り言ちた。
「ありのままを言え。俺がノートを見付けて来て、読めと言ったといえばいい。それで知ったと言えばいい。それから、色々と話をすればいい」
リッサが言ったので、叶は泣き腫らした目でリッサの顔を見た。
「でも、それじゃ、リッサが」
「その方が話が早い。こういう事で余計な事は言わない方がいい」
叶の言葉を遮るようにリッサが言う。
「分かった。ノート、どこにあったの?」
密に言う時は、自分が偶然このノートを見つけったって言おうと思いながら叶が言うと、リッサが顔を上に向けた。
「二階だ。仏壇の引き出しの中だ」
リッサの口から出た仏壇という言葉を聞いて、叶は、お父さんとお母さんの仏壇だと思った。
「ノート、戻して来る」
叶が言って立ち上がろうとすると、リッサが叶の膝の上から飛び下りた。
「理者の力を使えばいい。俺が戻してやる」
立ち上がった叶の顔をリッサが言いながら見上げた。
「私がいた頃に仏壇なんてなかった。きっとその仏壇はお父さんとお母さんの仏壇だと思う」
叶はそう言うとノートを握る手に力を込めた。
「一緒に行こう。お前を一人にするのが心配になって来た。密の事もあるが、両親や妹の事もある。大丈夫か?」
リッサが犬然とした顔に心配そうな表情を浮かべて言う。
「うん。ありがとう」
叶は言いゆっくりと歩き出した。