第4話 超能力者?

文字数 2,131文字

青い空に桜の花弁が紙吹雪の様に舞っている。飛行機雲が一直線に伸びてゆく。其の先に小さな白い機体が陽光を受けて煌めいていた。穏やかな午後の上空の景観とは裏腹に 中庭は部活動の勧誘の声で騒然としていた。よりによってこんな狭い場所でしなくても良さそうなものだ。人の交通渋滞が起きている。しぶとく追い縋って来る勧誘の手に捕まらず 人でごった返す中をすいすいと進んで行けるのは霊だけだ。ぶつかったと思い謝罪の言葉を出す前にすり抜ける。
負けんばかりの声を張り上げて 太いマジックで大きく書かれた画用紙を手に彼女は小学生くらいの幼い女の子と一緒に居た。其の女の子は幼少時代の彼女ではないかと思える程姿が似通っていた。女の子はハレーに気付くと破顔一笑元気良く手を振った。其れは 普通なら視える筈のない存在だから 彼女は気付いたハレーに向かって証に手を振って見せたのだ。
悪いものだ、と言う感じはしないが活発な子で 坊主頭の生徒の頭を撫で回したり 鏡を覗いてばかりいる化粧の濃い女生徒の真横に立って一緒に覗き込んだり 兎に角じっとしていない。
「私のこと自意識過剰とか思われるかも知れないんだけど」
「あの 私 … ずっと東宮さんに言いたい事があって
頬を桜色に上気させて 星は足をくねらせ地面にのの字を書いている。
   え?ちょっと
   なに?やめて
「東宮さん!私と一緒に超常現象研究部やりませんか!!」
其の熱波とフルボリュームの声と来たら 大型スピーカーの前にうっかり立ってしまい爆音の洗礼を浴びたかの様だった。
ハレーは目をぱちくりさせた。
   …は?何?
「実は、私も超能力者なの!」
ベートーヴェン交響曲第五番運命を伴って彼女は意気揚々と声を張り上げた。
此の顔が彼女を傷つける様な表情になっていなければ良いが、と思いながらも余りにも衝撃的な発言に ハレーは表情筋にまで意識を及ぼす事が出来なかった。
星の横で女の子が吹き出しているのが視えた。
「人の心を読んだりとかはまだうまく出来ないんだけど
「あの時ね 私東宮さんと目が合った時 びびっと来たの」
   いや あんたの事は見てないんだけど
「こんな能力があるなんて普通の人には話せないから」
「きっと東宮さんも苦労して来たんだろうなって」
星は優しく包み込む聖母の様な目でハレーを見る。ハレーは宗教の勧誘に捕まって振り切れずに居る様な心地の悪さを感じていた。
「東宮さん テレパスなんだよね?」
   てれ …?
「あの時私に念を送ってくれたでしょ?」
   てけすた
「ほら 見て!」
いつも持ち歩いているのだろうか。銀色のティースプーンをスカートのポケットから取り出して見せる。
そうしてきつく目を瞑ると
「折れろ 折れろ」と念じ始めた。
此の少女を一体どう扱えば良いのだろうか。皆目見当もつかない。
女の子は悪戯っぽい笑みを浮かべ ふわっと浮き上がるとスプーンの首を掴む。スプーンはパキンと音を立てて二つに折れ 金属音を響かせて匙の部分が廊下に転がり落ちた。
「ほら!」
音に目を開いた星は得意満面 ハレーに向かって柄だけになったティースプーンを突き出して見せる。
   いや、ほら!じゃないから!
「まぁまだ此の力は未知数だから」
照れくさそうに折れたスプーンをごそごそとポケットにしまう。
「東宮さんのテレパシーには全然及ばないんだけど」
   そんなのないから
「俺も使えるよ」
不意に頭の上から降って来た声に二人はびびっと総毛立った。
「超能力」
   神室月兎!
脇の階段から小憎たらしい程余裕の笑みを見せながらチャラ男が降りて来る。
「ええ?!ウソ!神室くんも?」
星が驚嘆の声を上げる。
   ちょっと 真逆信じるの?
「其れで どんな能力が?」
絵本の読み聞かせを待つ園児の様にワクワクしながら早く読んで、とせがまんばかりだ。
「俺は
一体何と言うつもりなのか。ハレーまで神室の言葉をドキドキしながら待っている。
「ハレーの居場所が分かる」
余りに驚き過ぎると表情では表わせなくなるものだ、と能面の様な顔でハレーは思った。
「其れって遠隔透視よね?!」
「すごい!すごいわ!」
今や星は神室を崇拝する勢いに迄迫っている。神室月兎の存在はボロアパートの裸電球から高級ホテルのシャンデリアに格上げされた。
女の子は遂に堪えきれずに大爆笑し 神室月兎の背中を小さな手でばしんと引っ叩いた。
不測の事態であった。
神室月兎は階段からよろけ落ち ― そうになり 持ち前の運動神経の良さで何とか体勢は立て直したのだが 廊下に降り立った時に真面にハレーにぶつかった。
ハレーが無防備に階段の真ん前に立っていた事も 霊体の女の子が実体である神室を動かす、と言う事態に驚いて呆然としてしまったのも悪かったのかも知れない。
ぶつかって来た神室月兎の顔が息を感じられる程間近に迫り 二人は互いの目を見据えた。
あろう事か
神室月兎の手はハレーの胸を鷲掴みにしていた。


あの後どうなったか、なんて知らない。
ハレーの拳は瞬時に動いていた。神室は回避出来なかった。
死んではいないだろう。悪運の強い男だから。
   そうだ 今日はドーナツを食べに行こう
カラフルなドーナツが次々と浮かんで 逃避思考に走るハレーの頭の中を埋め尽くしていった。

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登場人物紹介

東宮ハレー+黒虎 霊感美少女。祖父直伝の蹴りと祖母直伝のビンタで悪を成敗。

神室月兎+天女  ゴールドメッシュのチャラ男。好物はアップルパイ。

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