アイヌ民族とは

文字数 923文字

第一話 え、アイヌの血脈、マジおもっ!
 世永リエは札幌明成大学三年生。国際学群観光産業専攻。卒業後の進路は北海道の観光振興に携わる企業の予定。でも本音を言えばテレビ局アナになりたい。なのでサークルはアナウンス研究会。この大学だけでも百人在籍する。それだけ人気憧れの職業と云える。

 白石区で1Kアパート暮らしだが出身は沙流郡平取町二風谷。ちょっと(道)の歴史をかじった者なら、「アレ、じゃ、アイヌの」となる。今は両親ともに釧路にいる。アイヌの民芸品(木彫り工芸品)の製作者として工房にいる。今はコロナで観光業は壊滅。暇だそうだ。
 父は焼酎が入るとご先祖の話しをする。
 「ワシらはアイヌの中でも樺太アイヌの血筋を引く最後の生き残り。血を絶やしちゃいかん」
 悪気はないんだろうがリエのお腹を見つめる。リエは気配を感じて両手でお腹を隠す。そんなことを期待をされても困る。世の中「この人は樺太アイヌの血を引く王族だ」などと云って特別扱いはしてくれないし、ましてや期待されても居ない。
 この際だから――
 アイヌは北海道の民族と思っている方が多い。ところが、本当は樺太、千島列島、カムチャッカ半島それに北海道と広範囲に居住していた民族の総称。むしろ北海道は人数においては劣勢であったかも。
 先の大戦での敗戦以前は、樺太の半分、千島列島全部は日本の領土だった。ところがソ連軍の侵攻によってカムチャッカ半島を含めて居住する異人は総じて日本人と決め付け殺害されるか追いやられた。結果としてアイヌは南の北海道(蝦夷地)にやって来ざるを得なくなった。
 父の云う。樺太アイヌとは樺太から追いやられたアイヌ(いち集団)のこと。最初は稚内周辺に居たそうだ。狩猟民族にとっては獲物が命綱。彼(か)の地にはそれが豊富ではなかった。やがて日本に高度成長期がやって来て他に生業も持たぬ彼らは取り残された。次第に自然淘汰される。
 多分ご先祖は這う這うの体で二風谷に身を寄せたに違いない。同胞として最後に頼った。この考え方によると他に千島アイヌ、カムチャッカアイヌの残党がいるはず。その(生き残りの道)は似たようなものだろう。だけど、みんな血を絶やしちゃいかんなどと思っているのだろうか?
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