ネイティブ・アイヌ、差別の本質を識る

文字数 1,707文字

第七話 ネイティブ、怒る!
 七月に「ウポポイ」なるものがオープンした。これにはさすがに憤りが生れた。コンセプトは(アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及および啓発)だそうだ。でも接頭語がどうしても解せない。

 民族共生象徴空間
 これは一体なんのことなの?
 (ウポポイ)はアイヌ語で大勢で歌うこと。祝い事で耳慣れた言葉。でも接頭語(民族なんたら)の言い訳に聞こえる。確かに広大な施設の中にはアイヌ民族博物館も併設されているが、どうして大元の施設名にアイヌの文字が無いのか?
 どうしても(ウポポイ)を使いたければ単純に「アイヌ―ウポポイの杜」でいいじゃない?
 もっと核心をついて「アイヌモシリ(アイヌ民族の大地/静かな大地/北海道のこと)」じゃどうしていけない? リエの疑惑は深まる。

 人権を重んじる欧米諸国を前にして(客観的な史実)に動揺する大和民族政府が悩み抜いた挙句のどっち付かずの言葉。アイヌには言い逃れにさえ聞こえる。
 そんな時に東京で「ウポポイ」に反対するデモが計画され参加するアイヌを募集していた。
ちようど夏休み。半分東京見物も手伝って参加することにした。
 集合場所は新大久保。昨日羽田に着き夜の渋谷を見物をする。はじめての東京に心は弾む。札幌の繁華街が十重(とえ)もある大都市。
 集合場所には五十人ほどの人たちが。リエはこんなに大勢の大人のアイヌ(民族の血を引く人)を見たことがない。アイヌの民族衣装をあてがわれた。アットゥシ(またはアミブ)を身に付けるのは二度目。他の人に習って羽織る。
 この辺りにはアイヌが多数居住していて「アイヌの伝統文化を継承する会」を作っていた。
メンバーはアカシ(長老格)、フチ(お祖母ちゃん)、アチャポ(叔父さん)、カッケマッ(立派な夫人)が中心の団体。オッカイ(青年)やメノコ(女子)はあまり居ない。
 一人のカッケマッからプラカードを手渡された。そこには、

「ウポポイ」とは日本政府のまやかし
 直ちに、アイヌに先住権を認めよ!

 あの時感じた{違和感}を言葉で表現するとまさにこうなる。
 リエは胸の中がスーッとした。 
 アイヌが欲しい物は(文化を広める箱物)ではない。二百億円も使うならアイヌに限らず貧困層を手厚く援けて欲しい。
 ――アイヌは、ウタリ(仲間たち)と、ペッ(川)で、
            カムイチェプ(鮭)を捕り、カムイノミ(神に祈る)
 そんなアイヌが往昔(おうせき)より自然にして来たことを当たり前に成したい。
 今の時代、熊や鹿、狐は捕れない。植物さえ国立道立公園内での採取は禁止されている。それは重々分かっている。だからせめて、神(カムイ)の名を冠する鮭だけでも狩猟し、サケの神様に自然の恵みを感謝したい。それがささやかな先住権。
 日本政府は昨年やっと「アイヌ」を日本の先住民と認めた。土人、そう呼ばれ続けて四百年。土人から解放された瞬間。それでもなお「先住権」は認めようとしない。
 「先住権」こそがアイヌの権利。デモは開始された。
 でも、シュプレヒコール! とは行かない。みな場慣れてしていない。それに叫んでも街の人は全く関心を示さない。な、もんだ。と、一人のオッカイがウポポ(唄)に合わせてリムセ(踊り)を始めた。その方が愉しい。みなもそれに倣う。
 阿波踊り、ヨサコイとはゆかない。派手さは全くない。輪になって拍子のような声に合わせてゆったりと静かに動く。リエも小学生の頃、地域の祭りでよくやった。「アイヌ」の誇りを自信を持って表現できる。いつしか持っていたプラカードはアスファルトの上に積み重ねられていた。
 夕方にはデモ(踊り)は終了した。カッケマッからはお店(アイヌ料理)で食事をとるように言われたが、帰りの飛行機の時間が迫っていると辞した。実は(お目当)てがある。
 その脚で新大久保のイケメン通り界隈でBTSグッズと韓国の有名コスメを買い漁った。自分でもやっている事のギャップに唖然とする。ふふ、現代版「アイヌ」の代表だな。商品で膨れ上がったバッグを片手にトッポギで空腹を満たす。
 そうそう、友人にもお土産を買わなくちゃならない。 
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