歴史的の事実から連綿と続く「在日」への差別

文字数 1,460文字

第八話 マイノリティの誇りは消えず 
 智浩の実家は東京の下町、江東区〇にある。父親はさらに父親の在日一世から受け継いだ金型業を営む。母親も手伝う。従業員は今はいない。忙しい時のみ同業者から人を借りる。
 この地区には同じ金型成形業(+金型を使ってプラモデルの部品を作る工場)を生業とする在日二世が十軒ほど軒を並べている。いわゆる町工場の一団。他にパチンコ店や金融業を営む在日。そしてその従業員の家屋。住民を目当ての総菜、雑貨、薬局、食堂などが建ち並ぶ。いわゆるコリアンタウン。

 どこの国、地域に行ってもそうだろうがマイノリティは群れる。疎外感、同族意識、相互互助、利便性からかな。でもそれはマジョリティから見ると異質、異空間、近寄り難い場所。やがて偏見、蔑視、敵意…総じて差別の対象となる。
「チョウセン部落」と地域の人々は呼ぶ。言葉の裏には{下層民}が隠れる。この時代になってもなお色濃く残る。(固有名詞)はひとたび確立されると受け継がれる。それに相手は優越意識の塊。なかなかに消えない。
 一世はマジョリティのシマを歩いていると物を投げつけられたと云う。さすがに今はそれはない。けれど部落の境界線を歩くと高齢者の日本人からは特別な目で見られる。何が特別なのかは表現がムズイ。これは「チョウセン部落民」じゃなければ分からない肌感覚。
 ―じゃ、部落から抜けて別の場所で日本人として暮らせば?
 云うのは簡単。第一経済的ゆとりがない。みな今の暮らしで精一杯。そして何より特段不満を感じている訳ではない。蔑視の眼さえ無視すれば住めば都。また、困窮してもパチンコ店、金融業など一部の成功者から援けて貰える。これはデカい。
 日本に帰化しないのも別段困らないから。医療、年金、社会保障はマジョリティと一緒。わざわざ二十万円近くを行政書士に支払い十か月に及ぶ審査を受ける必要を感じない。
 そして何よりも「在日」であることを尊ぶ。誇りも誉れもある。日韓併合、(韓国、北朝鮮)が日本の領土となり強制的に労働力として連れて来られた時より「在日」は覇権主義からの凌辱、屈辱、汚辱、恥辱の{生贄、生き証人}となった。それでも今日まで百十年余、強く生き抜いて来た「自負矜持」を持つ。
 「在日」は本国に帰っても「在日」扱いされる。つまり「日本びいき」の韓国人と推量され、やはり差別を受ける。韓国の(日本バッシング)は相変わらず。
 それに故郷が北朝鮮の「在日」はもはや難民扱い。北朝鮮とは国交がないため
「在日北朝鮮人」とは呼ばないし帰る故郷は存在しないも同然。
 やはりこのままで居ることが最良の道なのだ。
 木村智浩もこの地で小中高の教育を受けたがイジメも嫌がられせも経験していない。姓名は日本人のもの。高身長で体育の得意な彼は、みなから「トモ君」と呼ばれ女子から特段にモテた。
 男子からはテコンドーをやっていることで一目置かれた。悪ガキ連中も手出しが出来ない。テコンドーは将来のためになるとの父のはからいで五歳の時から始めた。

 この地区を出てしまえば日本人として全国どこでも通用する。まして韓流スター並みの容姿から注目の的となる。今はBTSブームの真っただ中。一度、他薦(高校の同級生)で大手芸能事務所のタレント採用試験を受け三次面接まで行った。
 けれど「やめて置け」と父が反対した。いずれ「在日」であることがバレる。今はチヤホヤされる。けれど将来が見通せない。またレイシストの数の多さも指摘された。経験や実体験から出る言葉は重い。頷くしかない。なるほど。
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