アイヌモシリでひたすら愛しのアイヌを探す

文字数 1,052文字

第十二話 恋華咲く静かな大地 
 北海道ははじめて。陽射しは案外強いけれど湿度かがないぶん過ごしやすい。千歳空港から電車で札幌駅まで辿り着くものの何処に行くアテが見つからない。智浩はスマホで「アイヌ」に関係するような事柄を飛行機に搭乗した時から検索し続けている。
 博物館を巡っても目的は展示物じゃない。生身の人間。何処に住んでいるのかも分からない。「在日」のように集団を成している地区はあるはず。だが、それは住民にしか分からない。プライバシーにかかわること。検索には引っかからない。


 駅から真っ直ぐの道を南に下る。やがて大通公園が見えた。左には赤い札幌タワーが。智浩は公園のベンチで最後の手段に出る。Twitterに(#札幌アイヌ)を付けて、
 「新大久保のアイヌのデモに参加した女子(エカリアン)を捜しています」
 予想通りに返事は来ない。こうなれば運任せで歩き廻るしかないか。
 女子が好みそうな札幌の繁華街を徘徊する。三越デパート、パルコ、その下の地下街。適時、坐る場所を見つけては行き交う若い女子を物色する。
 ナンパなら何度もしたことがある。だが今度は訳が違う。捜し出すのはオンリーワン。智浩に残された時間は今日と明日の夜まで。明後日からは就職先(ヘアメイクサロン)の社員研修が始まる。今日はこのまま札幌中心部の繁華街。明日はちょっとオシャれな地区と認定されている
(円山公園)周辺にターゲットを絞ることにした。

 ―
 その時、スマホが鳴った。
「リエちゃん、たいへんゆかりがパニくってる。お母さんが警察に呼び出されて、なんかボロボロ泣いてる。どうしよう。悪いけど早く来てくんない。私ひとりじゃ心細い」
 大切な友人(女子友達)関係。最優先課題。バイト先のお花屋さんに「独り暮らしの友達が体調をくずした」と嘘をつき早引きさせて貰う。手早く仕事着のエプロンを外し、外に走り出ようとすると、ご主人がちょうど配達があるから車に乗せてってくれると云う。


 リエは礼を陳べ、店先で車を待つ。ここは円山地区のランドマーク(マルヤマクラス/ショッピングモール)が道路を挟んで見える。と、入口近くのスタバから行き交う自動車の合間をすり抜けて走って近寄って来る青年が。
「あのう、僕、新大久保であなたからチラシをもらった……」
「はい、覚えています」
 その時、車が到着し、リエは車に乗らざるを得ない。
 リエを載せた車は無情にも智浩のもとから走り去る。
「あの人、まさか私を?」
 リエは振り返って小さくなる青年の姿をいつまでも見つめていた。
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