在日コリアン、アイヌの女神に出逢う

文字数 1,602文字

第六話 出逢いは突然に
 全員在日かと思いきや日本人も居る。近くの大学生のバイト。在日だけではイケメンの人数が賄えないらしい。まぁ、見た目は分からない。それぞれに愛称がある。「ソドク」「ルンソ」「ジュンギ」とか、智浩の場合はまんま「ジホ」となる。
 「ボーイスバー」は歌舞伎町のホストクラブとは違い、普通の女子でも親しみ易い価格に設定されている。昼間のCAFEはワンオーダー+歌い放題。夜のBARは飲み放題+歌い放題で時間二千円。昼間は気軽に女子高生も入店する。店内はK-POPで溢れている。
 同僚の日本人にレイシストはいない。みな親韓派。わざわざ新大久保でバイトするぐらいだから韓国語を専攻としている学生もいる。時給は千五百円。悪くはない。美容師見習いよりはよい。

 けれど将来の展望はない。なので本命はやはり美容師職。新大久保近辺で探してみたが何処もイケてない。オモニやイモが営む美容室は野暮ったい。
 新宿にまで出ると前の職場と替わらない。何処にレイシストが居るともしれない。智浩はまだ二十二歳。じっくり職場に関する情報を集めよう。そう考えると気が楽になる。また、智浩はモテた。女子高生などは彼に触っただけでワッ!と恥ずかし気に逃げ惑う在りさま。
 中には韓国のイケメンというだけでセックスまでOKな女子もいた。性欲盛んな年頃のこと。有難い稼業でもある。また夜は指名制。+千円だけれども、歌舞伎町の各種風俗嬢たちが日頃の憂さ晴らしに多数来店する。
 彼女たちの気前は特段に良かった。二、三人のメンエス嬢からはお小遣いと称する現金や高価なブランド品をプレされ、これを表現するなら貢いで頂いている状態。オマケにプロの性伎付き。
 ただ彼女を持つこと(特に結婚を前提とする)には常に及び腰。理由(ワケ)はのちほど。小中高と普通科の学校に通ったが彼女は作らなかった。バレンタインにはチョコで溢れた。高校の時に好きになった子もいる。
 手を繋ぎ晴海埠頭から眺める夕景、夜景は絶品だった。今でもその時のことを考えると胸がキュンとする。そしてはじめてのキス。身体がとろけた。
 智浩の両親はどちらも「在日」。そんな多数のチョコを持ち帰ると「世の中変ったものだと」と呆れられる。夕食時にお酒が入ると、お決まりの「いかに在日は辛酸をなめて来たか!」
についての講義が始まる。智浩は耳ダコで足早に二階に駆け上がった。その繰り返し。
 新大久保駅前にはいろんなデモがある。最近では政治絡みのものが多い。
「在日朝鮮人は即刻故郷に帰れ!」「文句があるなら日本から去れ!」
 こんなものから真逆に「差別主義者撲滅!」「日本の恥!」などのプラカードを持つもの。
 同僚と店の外でタバコを吸いながら、いつもは無関心に眺めていた。ああいう人たちはどう
やって食べてるんだろうか? などと要らぬお世話をやいてしまう始末。
 ただ今回のものは訳が違った。

 私たち先住民の声を聴いて欲しい!
 同化政策に謝罪を!
 先住権を即刻認めよ!

 この人たちは今までに見たことのない民族衣装を着て、聴いたことのない楽器を音取(ねと)り、輪を作り唄い踊る。大体、日本に先住民など居るのか? ここから疑問が沸く。すぐに頭に浮かぶのは沖縄のこと。彼らは自らのことを「ウチナンチュ」と称し「ヤマトンチュ」(和人)とは一線を画す。でも自らを先住民とは言わない。  
 ひょっとして、「在日」と境遇が似ているのかも。
 急いでデモを追いかけて配っていたチラシを受け取る。
 清(すが)しい女子の瞳に時を交わさず心が打ち震えた。雷に打たれたような電撃が全身を駆け巡る。(縁、糸、結、業)を感じる。思わず立ち止まり呆然と去り行く姿を見送っていた。

 デモしている人にナンパはないだろう。
 そうそう、肝心なチラシには「北国の民、アイヌ」の文字が。
 それが「在日コリアン」パク・ジホの「アイヌの民」との出逢い。
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