加奈、ゆかり、二人から同一人物の殺害を請われた神は一体どう??

文字数 1,528文字

第十三話 菊理媛神、夏麻ひく―命
 智浩は呆然と遠ざかる車を見送るしかなかった。
 予定通りに二日目、円山公園地区で人流を監視する。ショッピングモール一階のスタバに朝早くから居座る。お昼を過ぎた辺りで、(運)は降って来た。

        ※写真のお花は札幌市の華・ライラック(リラ)です。
 彼女が、まさに彼女が、車道越しに立っていた。智浩は眼を疑うより速く動いた。行き交う車を手で制しながらも一刻も早く彼女の元へ。
 彼女は自分を見つめていた。来ることを予想していたかのように。そして声を掛けると、「覚えています」とハッキリと応えた。でも、ほんの一瞬でまた何処かに消え去ってしまった。これは(運)の神様の「あだ情け」だったのか?

 ―
「あのね。私の両親は四年前に離婚したの。お父さんの暴力が原因で。お父さんは専制君主のような人で。いつも怒鳴り散らしてちょっとでも気に喰わないことがあるとすぐ手が出るの。お母さんも私も赤痣や青痣だらけ」
 リエは買って来た冷えたラテを手渡す。ゆかりは話しを続ける。
「そう、DVの典型。私が知り合いのツテでようやく支援の会に辿り着いて弁護士に間に入って貰ってやっと離婚出来たの。(ゆかりはラテで渇ききった喉を潤す)ところが、一週間も経たずに、復縁をせまる電話やメールがたて続けに。
 お母さんはこちらは幸せですのでもう構わないでくださいね、と。その後は着信音を消したり電源を落としたりで対抗してたんだけど、固定電話やスマホが使えないのはやっぱり不便でね。でも履歴を見ると一時間に三回も通知がある。とうとうお母さんにはストレスからのうつ症状が出始めてしまった。
 それでも我慢して居ればそのうち諦めると何とか耐えていると、今度は何処かの女の人を騙して『再婚した』との手紙が届いたの。仲良く笑顔で収まった写真と共に。当人はあてつけのつもりなんでしょうが、私たち二人にはどうでも構わない。むしろお相手に同情していた。また、DVが始まっているんじゃないかと。
 やっぱり予想は当たった。DVが原因で半年も経たずに離婚されてしまったらしい。そのあとはまた元に逆戻り。復縁を迫まってくる。もう最低のオトコ。縁を切ってもなお付き纏って来る」
「私ね、、」ゆかりは生唾を飲み込む。
「この前みんなで中島公園に花見に行った帰りの神社の絵馬に、
 {父がこの世から居なくなって欲しい}と、書いたの。
 そしたら今朝、お父さんが住まい近くの運河で溺死体で発見されたと、警察から知らせが入った。お母さんは警察に呼ばれた。たぶん、怪しまれてるんだと思う。重要参考人と云うヤツ。
でもね。お母さんは絶対出来ない。だって札幌にずっと私と居た。お父さんは東京に居る」
 リエはもうひとりの友人と顔を見合わせた。
「お願い。あの絵馬を取り戻して来てくれない。このままじゃ、私が殺人者になっちゃうよ」
 ゆかりはもはやむせび泣いている。泪はボトボトと床にしたたる。
「まさか??」
 でも現実に起こったこと。リエは友人にゆかりの傍にいるように告げると、神社に急いだ。
 ―
 智浩はタイムリミットを前に最後の運試しに出る。市民の憩いの場所、中島公園近くに縁結びの神社を見つけたのだ。
 三段上った神社本殿に深々と拝礼し、彼女に逢いたいと願う。そのあと二本の大樹が聳える境内を歩いた。ふと、絵馬に目が留まる。凄い数だ。裏表があるのでたぶん見てはいけないのだと思う。なのでたまたま裏を向いているものを見て歩く。
「こんなに恋の数があるのか? 神さんも大変だ」
 そんなことを想いながら二三歩歩いた時に肘が絵馬の束に当って十枚ほどが落ちた。
 ああ、ごめんなさい。智浩は拾い集める。と、その中の一枚にそれは在った。
 
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